ウルスラグナ

ウルスラグナ：勝利を司る英雄神

ウルスラグナ（Vərəθraγna）は、ゾロアスター教において崇拝される英雄神であり、その名は「勝利」を意味します。アヴェスター語形ではVərəθraγna、パフラヴィー語ではワルフラーン（Varhrān）と呼ばれ、「障害を打ち破る者」という力強い意味を持ちます。その他、アルタグン、ワフラーム、バフラームといった別名も存在します。

起源と神格

ウルスラグナの語源は、インド[[神話]]の神インドラの形容語ヴリトラハンと共通しており、その成立にはいくつかの説があります。一つは、イランでインドラが悪魔とみなされるようになった結果、ヴリトラハンという形容語が独立して神格化されたとする説。もう一つは、イランに存在したウルスラグナの原型となる神とインドラが、ヴェーダ成立時に融合したとする説です。

ゾロアスター教神学においては、ウルスラグナは中級神ヤザタに分類され、男性神格としてイメージされます。彼は特に戦の勝利を司る神であり、虚偽を弄する者や邪悪な者に罰を与え、自らを崇拝する者には勝利をもたらすとされています。戦場においては、両軍の間で四枚の翼を広げて降臨し、最初に彼を崇拝した軍に勝利を与えると言い伝えられています。また、ペルシアの7曜神においては、火星神と同一視されています。

教祖ゾロアスター自身が説いたとされる『ガーサー』には、ウルスラグナは特定の神格としては登場しません。しかし、ヘレニズムの影響が強かったパルティア王国時代には、ギリシア[[神話]]のヘラクレスと同一視され、広く信仰されるようになりました。

サーサーン朝ペルシアでは、帝王の性格を持つ戦勝の神として熱心に崇拝され、バフラームの名を持つ王も複数現れています。初代皇帝アルダシール1世は、自らウルスラグナの聖火を建立し、歴代の皇帝が参詣するようになりました。この時代から現代に至るまで、ウルスラグナは道路や旅の安全を守る神としても信仰されています。

アルメニアの民族的英雄神ヴァハグン（Vahagn）は、ウルスラグナが起源とされ、怪物ヴィシャップを退治したと伝えられています。

10の化身

『ウルスラグナ祭儀書』によると、ウルスラグナはアワタールという変身能力に長け、ゾロアスターの前に10種類の姿で現れたとされています。この変身能力により、ウルスラグナは様々な姿で戦うと考えられており、特に力強いイノシシの姿で戦場でミスラを先導する様子が宗教画などに好んで描かれました。また、鳳（おおとり）の姿の時は霊力に優れ、その羽根は災難除けの呪いとなり、身体に擦り付けることで悪い呪いを術者に跳ね返す力を持つとされました。

ウルスラグナが化身する10の姿は以下の通りです。

1. 強い風
2. 黄金の角を持つ雄牛
3. 黄金の飾りをつけた白馬
4. 鋭い爪と長い毛を持つ俊足の駱駝
5. 鋭い牙をした野猪
6. 十五歳の輝かしい若者
7. 鳳（おおとり）
8. 美しい野生の雄羊
9. 鋭い角を持つ山羊
10. 黄金の刃のある剣を持つ人間

これらの化身は、ヴィシュヌの10のアヴァターラに対応するという説もあります。両者の変身する動物には猪を除いて共通点が見られませんが、ゾロアスター教の善悪二元論による動物の分類や、ウルスラグナ成立におけるオリエント文化の影響などが背景にあると考えられます。

信仰と影響

ウルスラグナは、戦いの勝利をもたらすだけでなく、旅の安全を守る神としても信仰を集めました。その力強いイメージと変身能力は、多くの人々に勇気と希望を与え、ゾロアスター教の信仰体系において重要な役割を果たしました。また、アルメニアの英雄神ヴァハグンの起源となるなど、周辺地域の文化にも大きな影響を与えました。

参考資料

イヴ・ボンヌフォワ編 『世界神話大事典』大修館書店、2001年

関連項目

化身
* ヴァジュラバーニ

もう一度検索