オトギリソウ

オトギリソウ（弟切草）について

オトギリソウ（学名：Hypericum erectum）は、オトギリソウ科オトギリソウ属に分類される多年草です。日本全国、朝鮮半島、中国大陸に分布し、日当たりの良い道端や草地、山野などに自生しています。

名称の由来と伝説

オトギリソウという名前は、平安時代に花山天皇の時代に遡る悲しい伝説に由来します。鷹匠の兄弟がおり、兄が秘伝の薬草としてオトギリソウを用いていましたが、弟がその秘密を恋人に漏らしたため、兄は激怒し弟を切り殺してしまいます。また、別の説では、鷹の傷薬として秘密にしていたオトギリソウを弟が他人に漏らしたため、兄が弟を殺害したとも伝えられています。この伝説から、花言葉は「怨念」「迷信」とされ、葉に見られる黒い点は弟の血の跡だと語り継がれています。

欧米では、オトギリソウ属の植物は「St. John's wort」（聖ヨハネの草）と呼ばれ、洗礼者聖ヨハネの祝日の前夜に悪魔払いの力があると信じられていました。

その他、別名としてヤクシソウ、アオグスリなどがあります。中国植物名では「小連翹（しょうれんぎょう）」と呼ばれます。

特徴

オトギリソウは変異が多い植物で、草丈は20cmから80cmほどになります。茎は直立し、細長い葉が対になって生えています。葉の表面には黒い点が見られ、これはヒペリシンという光作用性物質によるものです。この物質は、摂取後に日光に当たると皮膚炎や浮腫を引き起こす可能性があります。

花期は夏から初秋にかけてで、茎の先端に直径2cmほどの黄色い花を咲かせます。花にも黒点が見られ、花をつぶすと紫色になります。花は一日花で、日中のみ開花します。

薬用としての利用

オトギリソウは、古くから民間薬として用いられてきました。特に茎や葉は、止血効果があるとされ、「タカノキズグスリ（鷹の傷薬）」、「チドメグサ（血止め草）」などとも呼ばれます。

薬用には、開花期または結実期に花や果実がついたままの茎葉を刈り取り、乾燥させたものを用います。これを小連翹（しょうれんぎょう）と呼びます。煎じて服用したり、うがい薬、湿布薬として利用します。

煎じ液は、のどの痛み、風邪の咳、口内炎、扁桃炎、歯痛の緩和に役立ちます。また、切り傷、腫れ物、湿疹、かぶれなどには、煎じ液を直接塗ったり、冷湿布として使用します。また、消毒用エタノールに浸してチンキとしても利用されます。地域によっては、食用油に浸して虫刺され、おでき、切り傷、軽い火傷に塗る民間療法も存在します。

オトギリソウには、ヒペリシンやタンニンが含まれており、特にタンニンには収斂作用があり、出血を伴う傷の止血に効果が期待できます。しかし、ヒペリシンの経口摂取による光線過敏症のリスクもあるため、安易な服用は避けるべきです。これは、同属のセイヨウオトギリソウ（セントジョーンズワート）にも共通する注意点です。

最近の研究では、オトギリソウ茶にマルターゼ阻害活性があり、血糖値の上昇を抑える効果も報告されています。

注意点

オトギリソウの利用には、光線過敏症のリスクがあるため、注意が必要です。特に、ヒペリシンを摂取した後は、日光への露出を避けるようにしてください。

類似種と分類

オトギリソウには多くの類似種が存在し、分類が困難な場合があります。茎が直立せず斜めに生えるものや、葉に黒点がないものは、薬用としては用いられないため、注意が必要です。

まとめ

オトギリソウは、その悲しい伝説と薬効から、古くから人々に利用されてきた植物です。正しい知識を持ち、適切に利用することで、その恩恵を受けることができるでしょう。

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