ガラス絵

ガラス絵とは

ガラス絵（がらすえ）とは、透明なガラス板の片面に、膠、ワニス、油などのメディウム（媒材）を用いて絵具で描かれた絵画のことです。描かれた絵はガラスの裏側から鑑賞されます。硝子絵（しょうしえ）とも呼ばれます。

ガラス絵の作画方法

ガラス絵の制作は、通常の絵画とは異なる独特な手法を必要とします。最も大きな特徴は、左右反転した状態で描く必要がある点です。また、一度描いた絵具を修正することが難しいため、事前に紙などに下絵を描き、それを参考にガラス面に描くのが一般的です。

例えば、人物の顔を描く場合、通常は最後に描く目鼻などの細部を先に描き、その後に肌の色を塗るという手順を踏みます。このため、描き始めから完成図を意識した高い集中力と技術が求められます。ガラス絵は、絵具が直接空気に触れないため、画面が汚れにくく、色彩が鮮やかに保たれるという利点があります。また、表面が平滑であるため、光の乱反射が少なく、常に潤いのある発色を鑑賞できます。しかし、泥絵の具のみを用いた作品は剥がれやすいという欠点もありました。

現代では、まずトレーシングペーパーに下絵を描き、それを裏返した状態で板ガラスの上に重ねます。その上からグワッシュで下絵をガラスに写し取ります。次に、ガラスを少し持ち上げ、光を透かしながら、油絵具で彩色していくという方法が一般的です。

ガラス絵の歴史

ガラス絵は、西洋ではグラスピクチャー、グラスペインティングなどと呼ばれています。その歴史は古く、10世紀には初歩的なものが作られていたとされています。14世紀には、ヴェネツィアで初期のガラス絵が誕生し、その後、ドイツ、チェコ、ルーマニアなど、ヨーロッパ各地で制作されるようになりました。これらの地域では、ワニスをメディウムとして用いることが多かったようです。

ガラス絵の技法は、シルクロードを通じてインド、中国、日本にも伝わりました。中国では、玉板油絵（ぎょくばんゆえ）、玉盤油絵（ぎょくばんゆえ）、玻璃油絵（はりゆえ）、玉板画（ぎょくばんが）、玉盤画額（ぎょくばんががく）、画鏡（がきょう）など、様々な名称で呼ばれていました。

日本では、当初「びいどろ絵」と呼ばれていました。ガラス絵が日本に初めてもたらされたのは、寛文3年（1663年）のことで、オランダ商館長から将軍への献上品の中に含まれていました。18世紀後半になると、長崎でヨーロッパや中国のガラス絵を模倣する動きが始まり、明治30年頃まで制作が続けられました。主な制作地としては、長崎、江戸、上方（京都・大阪）、名古屋などが挙げられます。長崎では、石崎融思（いしざきゆうし）やその子・融斎（ゆうさい）、荒木如元（あらきじょげん）といった長崎派の絵師たちがガラス絵を制作しましたが、現存する作品は非常に少ないです。これらの作品には、西洋の風景や風俗、漢画風の花鳥画など、洋風画の影響が色濃く見られます。

江戸では、司馬江漢（しばこうかん）が独自の油絵技法を用いてガラス絵を描いたことが知られています。また、葛飾北斎（かつしかほくさい）も著書『絵本彩色通』の中で、びいどろ絵の描き方について述べていますが、北斎自身が実際にガラス絵を制作したかどうかは不明です。江戸のガラス絵には、歌川国芳（うたがわくによし）系の浮世絵風美人画が多く、その他に花鳥画や風景画も見られます。明治時代に入ると、役者絵や開化絵など、時代の変化を反映した作品も登場しました。

ガラス絵の主な作品

「美人図」 作者不詳 江戸東京博物館所蔵（明治時代）
「舞美人」 平井菊園 江戸東京博物館所蔵（明治時代）
「母子図」 秀山 江戸東京博物館所蔵（明治時代）
「風景」 作者不詳 江戸東京博物館所蔵（明治時代）

関連項目

長崎絵
浮世絵

参考文献

泥絵とガラス絵　小野忠重、アソカ書房、1954年
浮世絵の基礎知識　吉田漱、大修館書店、1987年
* 浮世絵大事典 国際[[浮世絵学会]]編　東京堂出版、2008年6月 ISBN 978-4-4901-0720-3

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