コザ暴動

コザ暴動は、1970年（昭和45年）12月20日未明、当時アメリカの施政権下にあった沖縄のコザ市（現在の沖縄県沖縄市）で発生した、アメリカ軍の車両や関連施設に対する大規模な焼き討ち事件です。この事件の直接的な契機は、アメリカ軍人が沖縄住民を巻き込んだ交通事故でしたが、その根底には、米軍統治下における人権侵害や抑圧に対する沖縄住民の長年の不満と怒りが鬱積していました。

この出来事は地元では「コザ騒動」「コザ事件」「コザ騒乱」とも呼ばれ、単なる「暴動」ではなく、占領下での住民の権利と尊厳を求める叫びとして捉えられることもあります。

背景には、コザ市が嘉手納飛行場やキャンプ・レスターといった米軍基地を抱え、その経済が基地に大きく依存していた状況があります。ベトナム戦争の最前線として機能していた沖縄では、米兵の消費活動が活発でしたが、同時に米軍人・軍属による犯罪や不法行為が多発し、住民の不満は募る一方でした。特に、米軍関係者の犯罪は、米軍側の非公開の軍法会議で処理されることが多く、沖縄側の捜査権は限定され、公正な裁判や被害者への適切な賠償が期待できない状況が続いていました。

米軍統治下の沖縄住民は、日本国憲法もアメリカ合衆国憲法も完全には適用されないという不安定な地位に置かれていました。これにより、人権侵害に対する法的な保護が極めて限定され、米軍関係者による犯罪に対しては、泣き寝入りを強いられるケースが多々ありました。米軍人・軍属による犯罪発生件数は、ベトナム戦争の激化に伴い増加し、1970年には年間960件にも達し、特にコザ市で多くの事件が発生していました。これらの事件に対する米軍側の対応は、沖縄住民の不信感を一層深めるものでした。

1969年11月には、日米間で沖縄の「核抜き・本土並み・72年返還」が合意されましたが、基地を残したままの返還合意は、基地撤去を求める革新勢力だけでなく、基地依存経済への不安を抱える住民にも複雑な感情をもたらしました。さらに、返還を控えた米軍による沖縄人軍雇用員の大量解雇通告は、最大の労働組合である全軍労による長期ストライキを招き、米軍側が報復措置として基地周辺地域への立ち入りを禁止する「オフリミッツ」を発令するなど、緊張が高まっていました。

また、コザ市に隣接する知花弾薬庫での毒ガス漏洩事故が発覚し、住民の間に安全への不安が広がり、毒ガス撤去を求める運動が島ぐるみで展開されていました。法的な保護が不十分な状況下で、住民は事件発生のたびに集会やデモを通じて抗議するしかありませんでした。

事件直前の1970年9月には、糸満町で酒気帯び・スピード違反の米兵によるひき逃げ死亡事故が発生し、その後の軍法会議で加害者に無罪判決が下されたことは、沖縄住民の間に激しい憤りを巻き起こし、抗議集会が開かれるなど、社会的な緊張はピークに達していました。

そして、1970年12月20日未明、コザ市中心部の軍道で、米軍人の運転する車が沖縄人軍雇用員をはねる交通事故が発生しました。現場に駆けつけた米軍憲兵（MP）が加害者を保護しようとする態度に対し、集まってきた地元住民は不信感を募らせ、「加害者を逃がすな」と叫びながらMPに詰め寄りました。MPが威嚇射撃を行ったことで、住民の怒りが爆発。群衆はMPカーに放火し、さらに他の米軍車両にも次々と火をつけ、横転させました。事件は瞬く間に拡大し、数百人規模の群衆が米軍車両を標的にしました。

事態収拾のため、琉球警察は総動員体制を敷き、米軍側も武装兵を投入しましたが、暴徒化した群衆を制圧するのは困難でした。琉球政府の知念副主席は米軍に対し催涙ガスの使用を止めるよう抗議しました。警察の呼びかけもあり、暴動は午前7時半頃に自然収束しました。

この事件により、75台以上の車両が焼かれ、多数の負傷者が出ましたが、死者はありませんでした。また、政治的な組織による計画的な行動ではなく、住民の長年の不満が自然発生的に爆発した点が特徴的です。事件後、日本政府は遺憾の意を表明し、再発防止と原因究明を求めました。米軍は琉球政府代表の軍法会議へのオブザーバー参加を認めるなどの対応を取りました。また、毒ガス兵器は予定通りジョンストン島へ移送されました。

コザ暴動は、米軍統治下の沖縄における住民の権利と尊厳、そして不公平な状況への抵抗を示す象徴的な出来事となり、本土復帰運動にも大きな影響を与えました。

もう一度検索