ジャン・レイ

ジャン・レイ：欧州統合を推進したベルギーの政治家

ジャン・レイ（1902年-1983年）は、ベルギーを代表する弁護士であり、自由主義思想を掲げる政治家として、欧州統合の歴史に大きな足跡を残した人物です。リエージュ大学の法学部を卒業後、リエージュ控訴審裁判所で弁護士としてのキャリアを積み重ねました。ワロン独立運動への関与をきっかけに政界入りし、1935年には自由党に入党、リエージュ市議会議員を経て、1939年にはベルギー下院議員に選出されています。

第二次世界大戦中は、ベルギー政府の中立政策に反対を表明。ドイツ軍に捕らえられ、終戦まで投獄生活を送るなど、激動の時代を経験しました。戦後、ベルギー連邦制の支持を表明し、連邦国家創設法案を提唱するも、当時の議会では多数派の支持を得られませんでした。

レイの政治家としての活動は、国内にとどまりませんでした。1949年から1950年にかけては復興大臣、1954年から1958年までは経済大臣を務め、欧州石炭鉄鋼共同体（ECSC）の発展や、後の欧州経済共同体（EEC）、欧州原子力共同体（EURATOM）設立に向けた協議にも積極的に参加しました。

1958年から1967年までは欧州経済共同体委員会委員として対外関係を担当し、ケネディ・ラウンド交渉で重要な役割を果たしました。そして1967年、欧州委員会委員長に就任。ブリュッセル条約発効後初の委員長として、欧州統合推進の最前線に立ちました。

委員長在任中は、連邦主義者としての信念に基づき、共同体機構の強化に尽力しました。特に欧州議会の権限強化と普通選挙の実施を提唱し、関税同盟の完成にも尽力しました。1969年のハーグ首脳会議では、重要な役割を果たし、会議では経済通貨統合と欧州政治協力という2つの新たな枠組みが創設されました。これは、現在の欧州連合（EU）におけるユーロと共通外交安全保障政策の原型となっています。また、同会議ではフランスがイギリスのEEC加盟反対姿勢を転換したことも大きな成果でした。

レイは、欧州委員会の財源確保にも尽力しました。任期の最終年となる1970年には、共同体の独自の権限に関する提案を行い、各国政府の支持を得ました。これにより、EECは加盟国の負担金だけでなく、関税収入や農産物輸入税、付加価値税を歳入として活用できるようになりました。

政治活動以外でも、レイは欧州統合に貢献しました。1964年から1974年にかけては、ブルッヘの欧州大学院大学理事長を務め、1974年から1978年にかけては欧州統合運動の指導者として、ジャン・モネ基金の役員も務めました。1979年には、欧州議会の初の直接選挙で当選し、議員となりました。

晩年は、ベルギー政界で活動を続けました。自由進歩党を離党したフランス語話者の自由主義政治家の影のリーダーとなり、1976年にはワロン系自由改革党を結成しました。ジャン・レイは、弁護士、政治家としてのキャリアを通じて、自由主義と連邦主義を貫き、欧州統合の礎を築いた重要な人物と言えるでしょう。彼の功績は、現代のEUの基礎を築いたものとして、今もなお高く評価されています。

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