チェダーチーズ

チェダーチーズ：その歴史、製法、風味の探求

チェダーチーズは、世界中で愛されるセミハードタイプのチーズです。その起源はイギリスのサマセット州チェダーにあり、牛乳を原料としたマイルドな酸味と、熟成が進むにつれて増すコクが特徴です。現在では、その人気から世界中で生産され、様々なバリエーションが存在します。

特徴と種類

製法による分類

チェダーチーズは、製法によって大きく二つに分類されます。伝統的な職人が手がけるアルチザナル・チーズ（職人チーズ）と、大量生産を可能にしたインダストリアル・チーズ（工業チーズ）です。アルチザナル・チーズは、熟成とともに複雑で強い味わいを深めるのが特徴です。一方、インダストリアル・チーズは、食品添加物で味を強調することもありますが、「マイルド」「ストロング」「オールド」など、包装に記された風味を保証しています。

質感と味

チェダーチーズの品質を確立した酪農家ジョセフ・ハーディングは、その理想的なチーズを「詰まっていて堅い質感を持つが、その特徴と性質は甘美。口に入れれば溶けやすく、味はすばらしく満ちあふれる。喩えるならばヘーゼルナッツに近い」と述べています。伝統的な製法で作られたチーズは、長期熟成によって乳酸カルシウムの結晶を含むことがあり、質感は堅めです。しかし、農家の自家製チーズには、構造が脆いものもあります。15ヶ月以上熟成されたチーズは、ストロング・チェダーやエクストラ・マチュア・チェダーと呼ばれ、ヴィンテージとも称されます。

色と形

チェダーチーズは、本来は淡い黄色をしていますが、オレンジ色に着色されることもあります。着色には、アナトー色素が使われることが一般的です。着色されたものはレッド・チェダー、着色されていないものはホワイト・チェダーと呼ばれて区別されます。アメリカでは、ホワイト・チェダーをバーモント・チェダーと呼ぶこともあります。現在、工場で生産されるチェダーは四角く成型されていますが、農家で生産されるものは円盤状です。

原産地名称保護

「チェダーチーズ」という名称は、あまりにも広く使われているため、原産地名称保護制度の対象とはなっていません。しかし、欧州委員会は、ウェスト・カントリー・ファームハウス・チェダーチーズをPODの対象としています。これは、特定の地域で伝統的な製法で作られたチェダーチーズのみに与えられる名称です。このチーズの生産地は、サマセット・デヴォン・ドーセット・コーンウォールの4州に限定されています。

歴史

発祥

チェダーチーズは、少なくとも1170年には生産されていた記録があります。一説には、ローマ人がフランスから製法を持ち込んだとも言われています。伝統的に、チェダーチーズはウェルズの大聖堂から半径30マイル（48km）の範囲で作られていました。

近代化

19世紀には、ジョセフ・ハーディングによってチェダーチーズの近代化・標準化が進められました。ハーディングは、技術開発と酪農衛生の向上に尽力し、チーズ生産の過程に新しい道具を導入しました。「ジョセフ・ハーディング方式」は、科学的な方法に基づいたチェダーチーズ生産の最初の近代的システムとなりました。第二次世界大戦中には、イギリスでのチーズ生産が統制され、多くのチーズメーカーが消失しました。

伝播

ジョセフ・ハーディング夫妻は、チェダーチーズをスコットランドや北米に紹介しました。また、夫妻の息子ヘンリーは、オーストラリアにチェダーを紹介しています。

再ブランド化の試み

1980年代後半からのスローフード運動の中で、チェダー評議会が結成され、「チェダー」名称の制限を主張しています。彼らは、「サマセットで生産されていること」「未殺菌牛乳、レンネットなど伝統的な製法で作られること」「布で包装されること」の3点を「チェダー」の条件とすべきだと主張しています。

伝統的な製法

チェダーチーズを特徴づける工程に、チェダリングがあります。これは、加熱後にカードをこねて塩と混ぜ合わせ、ホエーを抜きやすくするため四角く切って積み重ねる工程です。熟成には、洞窟などの特別な施設が用いられることもあります。

世界各国における生産

アメリカ合衆国

アメリカでは、工場で「チェダー」スタイルのチーズが生産されていますが、実際には風味をつけたプロセスチーズであることも多いです。インダストリアル・チーズとしての「チェダー」は、マイルド、ミディアム、シャープ、エクストラ・シャープ、ニューヨーク・スタイル、コルビー、ロングホーン、ホワイト、バーモントなどの種類に分けられます。

その他

アメリカでは、ウィスコンシン州が最もチェダーチーズを生産しており、その他、カリフォルニア州、ニューヨーク州、バーモント州、オレゴン州などが主な生産地となっています。また、チェダーチーズはアメリカ合衆国農務省が酪農業の動向を測る統計に用いる品目の一つでもあります。

チェダーチーズは、その多様な製法や風味、歴史を通じて、世界中で愛されているチーズです。

参考文献
アンドリュー・ドルビー『チーズの歴史』（ブルース・インターアクションズ、2011年）ISBN 978-4-86020-426-6

関連項目
チーズ

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