バガ

バガ（Bhaga）は、サンスクリット語で「分配」「幸運」を意味する言葉であり、古代インド神話において、これらの概念を神格化した神の名前です。彼は、太陽神であるアーディティヤ神群の一柱として知られ、同じくアーディティヤ神群に属するアリヤマン神と共に、主権神ミトラ神に仕え、その活動を補佐する役割を担っていました。

バガ神は、その名前が示す通り、人々に公正な富を分配し、幸運をもたらす神として崇められていました。しかし、一方で、彼は盲目の神であるとも伝えられています。この盲目であるという特徴は、富の分配における公平性を象徴しているのかもしれません。

『マハーバーラタ』には、バガ神に関する興味深いエピソードが記されています。ダクシャ仙が主催した祭祀の場において、激しい怒りに駆られたシヴァ神によって盲目にされたというのです。ただし、このエピソードには異説も存在し、盲目になった経緯については諸説あるようです。

『リグ・ヴェーダ』においては、バガ神に捧げられた讃歌はわずか1篇7詩節（7・41・1-7）に過ぎません。しかし、バガ神の起源は非常に古く、インド・イラン共同時代にまで遡ると考えられています。彼の名前は、ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』に登場するバガや、古代スラブ語のボグといった言葉と語源を共有しており、これらの言葉は、いずれも「神」という意味を持っています。興味深いことに、ゾロアスター教の宗教改革においては、バガ神はアシという存在に昇華されたとされています。また、ローマ神話に登場する神テルミヌスは、バガ神と類似した役割を担っていたと考えられています。

参考文献：
『リグ・ヴェーダ讃歌』 辻直四郎訳、岩波文庫（1978年）
菅沼晃編『インド神話伝説辞典』、東京堂出版（1985年）
ジョルジュ・デュメジル『神々の構造』松村一男訳、国文社（1987年）
『デュメジル・コレクションＩ』丸山静、前田耕作編、ちくま学芸文庫（2001年）

関連項目：
* アリヤマン

もう一度検索