ヒジュラー

ヒジュラー：インド亜大陸の第三の性

インド、パキスタン、バングラデシュなどの南アジア地域に古くから存在する、男性でも女性でもない第三の性、ヒジュラー。ヒンディー語で「半陰陽、両性具有者」を意味するこの言葉は、ヒジュラ、ヒジュダなどとも呼ばれ、その実態は多様で複雑です。

ヒジュラーの社会的地位と生活

ヒジュラーの多くは女装し、女性のように振る舞います。肉体的には男性である場合や、半陰陽である場合がほとんどですが、必ずしも去勢されているとは限りません。歴史的にはヴェーダにも登場し、ヒンドゥー教やイスラム教の宮廷にも認められてきた存在です。現在でも、ヒンドゥー教寺院での宗教儀式に参加したり、一般家庭の誕生祝いや結婚式に招かれ、歌や踊りを披露するなど、一部では聖者のような存在として尊重されています。

しかし、一方でアウトカーストとして物乞いや売春に身を落とす者もおり、社会的な差別や偏見に苦しむ現実もあります。近年では、ウォールアートで生計を立てるヒジュラーも現れ始めています。インド政府は2014年にヒジュラーを第三の性として公式に認めたものの、社会全体での理解と受容はまだ道半ばです。インドにおけるヒジュラーの人口は、5万人から500万人と推定されており、正確な数は不明です。

ヒジュラーの名称と多様性

ヒジュラーという呼び名は、地域や文化によって異なります。ヒンディー語ではkinnarという古い呼び名や、chhakkaという俗語も存在します。タミル・ナードゥ州ではaravanni、ウルドゥー語ではkhusra、その他jankhaなど、様々な名称が用いられています。学術用語としての「hijra」の定着には、セレナ・ナンダの著書『ヒジュラ　男でも女でもなく』が大きく影響しました。

南インドでは、性別を変える力を持つとされるYellamma女神を信仰するJogappaという女装した男性信者がおり、その振る舞いはヒジュラーと類似しています。また、コティ(kothi)と呼ばれる、男性同士の性行為で女性的な役割を担う男性は、ヒジュラーとは区別されます。コティは地域によってdurani、menaka、meti、zenanaなどとも呼ばれます。これらの名称は、英語の"eunuch"（宦官）よりも適切な表現と言えます。

ヒジュラーの性とジェンダー

ヒジュラーは、西洋的なジェンダーや性指向の分類では説明しきれない存在です。先天性半陰陽の人もいる一方、多くの場合、青年期以降に自らの意思でヒジュラの集団に加わり、完全去勢を受ける男性もいます。彼らは女性でも男性でもなく、第三の性として扱われます。西洋文化の影響を受けた一部のヒジュラーは、自らをトランスジェンダーや性転換者と認識する場合もあります。

ヒジュラーは性別適合手術を受けることは稀であり、「真の」ヒジュラーとなるために去勢を受ける場合があります。去勢はニルヴァンと呼ばれ、伝統的には仲間の手によって原始的な方法で行われてきましたが、近年は病院での手術も増えています。すべてのヒジュラーが去勢するわけではありませんが、その割合は正確には分かっていません。

ヒジュラーの中には男性と関係を持ち、結婚にまで至る者もいますが、法律や宗教によって認められることはありません。性的または精神的な男性のパートナー（panthi、giriya、sridharなど）を持つ点は共通しており、西洋の受動的な男性同性愛者や、ストーンウォール以前の「queens」に類似したジェンダーアイデンティティーを持つと言えるでしょう。

ヒジュラーとなる過程

ヒジュラーになる過程は、「ヒジュラーの家族」と呼ばれる、グル（導師）とチェーラ（弟子）の関係によって特徴付けられます。グルはチェーラに自身の姓を与え、娘のように扱い、構成員はお互いを女性名で呼び合います。チェーラはグルに収入を捧げ、数人で共同生活を送ります。

ヒジュラーとなる最終段階は、完全去勢を含む宗教儀式です。伝統的な去勢は麻酔や止血なしに行われますが、近年は病院での手術も選択されるようになっています。造膣手術は稀です。

その他

インドの鉄道では、女性車両への乗車が認められています。

参考文献

石川武志『ヒジュラ―インド第三の性』青弓社、1995年
セレナ・ナンダ著、蔦森樹・カマル・シン訳『ヒジュラ　男でも女でもなく』青土社、1999年

もう一度検索