ピソウイルス

ピソウイルス（Pithovirus）

ピソウイルスは、ウイルスの一属であり、遺伝物質として二本鎖DNAを持つ巨大核質DNAウイルス群（Nucleocytoplasmic Large DNA Viruses, NCLDVs）の一つに分類されます。この属には現在、アメーバを宿主とするピソウイルス・シベリクム（Pithovirus sibericum）1種のみが確認されています。特に、2014年にロシア、シベリアの永久凍土中から採取された3万年前の氷床コアより発見されたことが、大きな注目を集めました。

形態

ピソウイルスは、その名前が古代ギリシャの大きな貯蔵甕である「ピトス」に由来するように、特徴的な形態をしています。一端が開いた甕のような楕円球型で、非常に巨大です。そのサイズは長径約1.5マイクロメートル、短径約0.5マイクロメートルに及びます。これは発見当時、既知の最大のウイルスであったパンドラウイルスの約2倍にあたる大きさでした。ウイルス粒子の内部には、ハニカム（蜂の巣）のような構造が見られます。

ゲノム

ピソウイルスのゲノムは二本鎖DNAで構成されており、約500の遺伝子を含んでいます。これは一般的なウイルスと比較すると非常に多い遺伝子数ですが、同じ巨大ウイルスであるパンドラウイルスの数千個の遺伝子と比べると、一桁小さい規模です。したがって、ピソウイルスのゲノムは、他のウイルスと比べて遺伝子の密度が低いという特徴があります。また、コードされているタンパク質の約3分の2は、既知の他のウイルスには見られない独自のものであることが判明しています。

ゲノム配列の解析からは、同じ巨大ウイルスであるパンドラウイルスよりも、正二十面体構造を持つマルセイユウイルス科（Marseilleviridae）、メガウイルス科（Megaviridae）、イリドウイルス科（Iridoviridae）といった他の大型DNAウイルスとの類縁性が高いことが示唆されています。ゲノムDNAに含まれるグアニン（G）とシトシン（C）の割合を示すGC含量は36%と低く、これは61%を超えるパンドラウイルスとは対照的で、メガウイルス科のそれに近い値です。

複製

ウイルスの複製は、天然痘ウイルスをはじめとする多くのDNAウイルスと同様に、宿主となるアメーバの細胞質内で行われます。

発見

ピソウイルスの発見は、フランスのエクス＝マルセイユ大学に所属するジャン・ミシェル・クラブリー教授とシャンタル・アベルジェル博士らが率いる研究チームによってなされました。彼らはロシア、シベリアのチュクチ自治管区沿岸部から採取された、約3万年前の氷床コアを調査していました。このコアは、後期更新世にあたる年代の堆積物から約30メートルの深さで採取されたものです。

具体的な発見の経緯としては、2000年に採取されていた永久凍土近くの川岸のサンプルを解凍し、出現したアメーバを培養中に、感染により弱ったアメーバから巨大なウイルス粒子が見つかりました。研究者らは、氷床コア中の微生物を蘇生させるという発想が、2012年にシベリアの永久凍土から氷河期に生息していた植物、スガワラビランジ（Silene stenophylla）の蘇生に成功したという報告に触発されたものだと述べています。

この発見に関する論文は、2014年3月に米国科学アカデミー紀要 (Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, PNAS) に掲載され、太古のウイルスが現代でも感染力を持ちうる可能性を示唆するものとして、科学界内外で大きな注目を集めました。

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