プロクロス

プロクロス：古代末期の知の巨星

プロクロス（412年2月7日 - 485年4月17日）は、東ローマ帝国時代の哲学者にして、新プラトン主義を代表する思想家です。アテナイのアカデメイア学頭として活躍し、その影響は後世のキリスト教神学にも及ぶなど、古代後期の知的な風景に大きな足跡を残しました。

リュキアからアテナイへ：運命の導き

ビュザンティオン（現在のイスタンブール）でリュキア人の両親のもとに生まれたプロクロスは、当初は弁護士の道を歩むことが期待されていました。クサントスやアレクサンドリアで法学や修辞学を学んだ彼は、ある時、アテナイで哲学を学ぶようアテナ女神から夢のお告げを受けます。この啓示に従い、アレクサンドリアで論理学や数学、宗教を学び、その後、430年にアテナイへと移住します。アクロポリスを訪れた際に出会った門番の言葉「あなたが来なければ扉の鍵を閉めるところだった」は、途絶えようとしていたプラトン主義の伝統を彼が受け継ぐことを暗示しているかのようです。

アカデメイアの学頭：多才な哲学者

アテナイのアカデメイアでは、プルタルコスやシュリアノスらに師事し、437年には学頭を引き継ぎます。学頭としての彼は、哲学の探求に加え、多神教の祭祀を行うなど、多様な活動に携わっていました。ヘカテーの幻視や雨乞いといった神秘的な逸話も残されています。彼の教え子には、マリノスやアンモニオスといった後の新プラトン主義者も含まれます。多くの結婚話もあったものの、彼は生涯独身を貫きました。

新プラトン主義の深化：イアンブリコスとの継承

プロクロスの哲学は、新プラトン主義の伝統を継承しつつも、独自の展開を見せています。イアンブリコスと共に、テウルギア（神聖儀礼）の重視や理論体系の緻密化を進め、「後期新プラトン主義」を確立したと言えるでしょう。キリスト教が支配的になっていたアテナイにおいて、彼は多神教を擁護し、キリスト教を批判したとされる著作『世界の永遠性について』も存在したと伝わります。政治への関与も見られ、政治家への助言なども行っていたようです。

多岐にわたる著作：数学、神学、哲学

彼の著作は哲学、神学、数学、天文学など、多岐にわたります。現存する著作として、『神学綱要』『三つの小品』『ユークリッド原論第一巻註解』などが挙げられます。中でも『ユークリッド原論第一巻註解』は、数学の哲学的側面を探求したもので、プラトンの『ティマイオス』との関連性も示唆しています。

西欧への影響：偽ディオニュシオスと『原因論』

プロクロスの思想は、後世のキリスト教神学にも大きな影響を与えました。6世紀のキリスト教神学者、偽ディオニュシオス・アレオパギテスは、プロクロスの思想をキリスト教神学に取り入れ、後の教父哲学に多大な影響を与えたのです。彼の著作『神学綱要』は、アラビア語に翻訳され、12世紀には『原因論』としてラテン語に翻訳されて中世西欧に広まり、トマス・アクィナスにも影響を与えました。他にも、ヘーゲルが彼の思想を高く評価するなど、その影響は多方面に及んでいます。

謎多き生涯：多様な側面

プロクロスの伝記は、マリノスによる『プロクロス伝』が残っていますが、脚色が多いことから信憑性に欠ける部分もあります。しかし、彼の生涯は、哲学者としての業績だけでなく、神秘主義的な側面や政治への関与など、多様な要素を含んでおり、今もなお多くの謎に包まれています。月のクレーターに「プロクルス」の名が付けられていることからも、彼の知的業績がいかに高く評価されているかがわかります。彼の残した著作は、現在もなお研究者によって解読され、古代後期の知の深淵を私たちに示し続けています。

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