ベグ

ベグ（beg, begh, beğ）とは：テュルク系指導者の称号

ベグ（beg, begh, beğ）は、テュルク系の社会において、指導者や有力者を指す称号として用いられてきました。その起源は古く、遊牧部族の長を意味する言葉に遡ります。

語源

ベグの語源については、複数の説が存在します。

漢語の「伯」に由来するという説
サーサーン朝などイラン系の君主号として用いられた「神」を意味するイラン語「バグ（bag）」からの借用語とする説

これらの説は、ベグという称号が、東西の文化交流の中で形成されてきたことを示唆しています。

各国語での呼称

ベグは、地域や時代によって様々な形で呼ばれてきました。

アラビア語・ペルシア語文献：バク/ベグ（بكbak/bek）、ビーク/ベイグ（بيك bīk/ بيگ beyg）
現代テュルク諸語：トルコ語（ベイbey）、ウズベク語（ビーbi）

また、「ベグ」から派生した「ベーグム（Begum）」は、王族や貴族の妻・娘が帯びる称号として使用されました。

歴史

イスラム教を受け入れたテュルク人の間では、ベグは遊牧部族や軍事集団の長の称号として、アラビア語のアミールとほぼ同義に用いられました。セルジューク朝の君主トゥグリル・ベグのように、固有名詞の一部として使用されることもありました。

アナトリアでは、地方の軍司令官や県知事の官職を指す称号となりました。ルーム・セルジューク朝では、軍隊の総司令官にベグレルベギ（beglerbegi、「ベグたちのベグ」の意）という称号が用いられ、オスマン朝に受け継がれてベイたちの上に立つ州総督の官職ベイレルベイ（beylerbeyi）になりました。オスマン朝では、アナトリアとバルカンにそれぞれ1名ずつのベイレルベイが置かれました。

オスマン朝におけるベイの称号は、次第にパシャに次ぐ高級官僚の称号に変化し、末期には佐官クラスの軍人の称号としても用いられました。現代トルコ語では、ベイは男性の名前（ファーストネーム）につけて呼びかける敬称として使われています。

16世紀以降の西トルキスタンのウズベク社会では、都市・村落を統治する部族長たちは「ベグ」の称号を用いました。16-17世紀の東トルキスタンでも、支配階級の身分を表す称号として用いられました。1760年以後の清の支配下でも、地主・豪族・官吏などの支配階級の称号として使われ続け、「伯克」と音訳されました。1884年の新疆省設置に伴ってベグ制度は廃止されましたが、中華人民共和国初期までベグは在地の有力者としての立場を保ち続けました。

このように、ベグは時代や地域によって様々な意味合いを持ち、テュルク社会の歴史の中で重要な役割を果たしてきた称号です。

参考文献

佐口透「ベク」『アジア歴史事典』7巻収録（平凡社, 1961年）
新免康「ベグ」『中央ユーラシアを知る事典』収録（平凡社, 2005年4月）

関連項目

アタベク
ベイリク
* パシャ

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