モリアオガエル

モリアオガエル（Zhangixalus arboreus）は、アオガエル科アオガエル属に分類される日本固有のカエルです。その名の通り、森林に生息し、美しい緑色の体色とユニークな繁殖生態で知られています。

分布

モリアオガエルは、本州と佐渡島に分布しています。神奈川県や千葉県では、人為的な移入の可能性が指摘されています。また、四国や九州での分布は、まだ明確には確認されていません。離島では、1970年頃から伊豆大島に外来種として定着しています。

分類

学名のZhangixalus arboreusは、「樹上棲の、ボロをまとったもの」という意味を持ちます。発見当初は、シュレーゲルアオガエルの変種とされていましたが、後の研究で独立した種であることが判明しました。かつては亜種とされていたキタアオガエルも、モリアオガエルに含まれることになりました。

形態

モリアオガエルは、オスよりもメスの方が大きく、体長はオスが42〜62mm、メスが59〜82mmほどです。オスは、喉の下に鳴嚢を持ち、繁殖期に膨らませて鳴きます。指先には吸盤があり、樹上生活に適応しています。体色は、全身が緑色の個体もいれば、褐色の斑紋を持つ個体もいます。体表に光沢がなく、虹彩が赤褐色なのが特徴です。

ニホンアマガエルやシュレーゲルアオガエルと似ていますが、モリアオガエルはより大型で、ニホンアマガエルには見られない黒い帯模様が目から耳にかけてありません。また、シュレーゲルアオガエルとは、虹彩の色で区別できます。卵の大きさは約2.6mmで、オタマジャクシは全長51mmほどに成長し、尾が細長いのが特徴です。変態直後の幼体は15〜22mm程度です。

生態

モリアオガエルは、山地に多く見られ、非繁殖期は森林で生活しています。繁殖期の4月から7月にかけては、湖沼や水田、湿地に集まります。成体は肉食性で、昆虫やクモなどを捕食します。天敵は、ヤマカガシ、ニホンイタチ、ニホンアナグマ、タヌキなどです。

モリアオガエルの特徴的な生態は、樹上に泡状の卵塊を産み付けることです。繁殖期にはオスが産卵場所に集まり、メスを待ちます。メスが来ると、オスは背中にしがみつき、産卵行動が始まります。複数のオスがメスに群がることもあります。産卵と同時に分泌される粘液を、オスとメスが足でかき混ぜて泡状の卵塊を作り、その中に卵を産み付けます。泡の塊は直径10〜15cmほどで、300〜800個の卵が含まれています。

泡の塊は、表面が乾燥すると紙のようなシート状になり、卵を保護します。約1週間で孵化したオタマジャクシは、泡の中で雨を待ち、雨で泡が溶けて水面に落下します。オタマジャクシは藻類や動物の死骸などを食べ、約1ヶ月でカエルに変態します。幼体はしばらく水辺で過ごした後、森林へと移動します。冬眠は浅い土中やコケの下で行われます。

保全状況

モリアオガエルは、多くの都道府県でレッドリストに指定されています。奈良県では絶滅寸前（絶滅危惧I類）、千葉県、兵庫県、岡山県では絶滅危惧II類、その他多くの県で準絶滅危惧とされています。生息数の減少は、森林伐採などの環境変化が主な原因と考えられています。

一方で、環境省のレッドリストには指定されておらず、国際自然保護連合（IUCN）では軽度懸念（LC）と評価されています。これは、地域によって個体数の増減に差があるためです。福島県や岩手県などの繁殖地が天然記念物に指定されている他、各自治体レベルでの天然記念物指定も数多くあります。愛知県新城市では、市のカエルに指定されています。

文化

樹上にできる卵塊は、古くから「延命小袋」と呼ばれ、珍重されてきました。

脚注

参考文献

前田憲男・松井正文『改訂版日本カエル図鑑』文一総合出版、1999年6月。ISBN 978-4829921302。
金井郁夫『モリアオガエルの生態と観察』ニュー・サイエンス社、1982年9月。ISBN 4821600919。
内山りゅう・前田憲男・沼田研児・関慎太郎『決定版日本の両生爬虫類』平凡社、2002年9月20日。ISBN 4-582-54232-8。
増田戻樹『モリアオガエル』あかね書房〈科学のアルバム〉、2005年3月1日。ISBN 4251033604。

外部リンク

* 写真で見るモリアオガエル（磐梯町）

もう一度検索

モリアオガエル