ユミル

北欧神話の原初の巨人、ユミル

ユミル（古ノルド語: Ymir）は、北欧神話に登場する原初の巨人です。彼はまた、アウルゲルミル（古ノルド語: Aurgelmir、「耳障りにわめき叫ぶ者」）とも呼ばれます。ユミルは、世界の始まりの物語において重要な役割を果たしています。

ユミルの誕生と巨人族の祖先

『スノッリのエッダ』によれば、ユミルはギンヌンガガプという空間で、ムスペルヘイムの熱とニヴルヘイムの霜が混ざり合う中で、原初の牝牛アウズンブラとともに生まれました。彼はアウズンブラの乳を飲んで成長し、多くの子孫を産み、これが霜の巨人族（ヨトゥン）の祖となりました。

神々との戦いと世界の創造

ユミルから生まれた巨人族は、神々と常に対立していました。最初に生まれた神ブーリの息子ボルが、ユミルの血を引くボルソルンの娘ベストラと結婚し、オーディン、ヴィリ、ヴェーの三神が生まれます。巨人達は非常に乱暴で神々と常に対立していましたが、ユミルはこの三神によって倒されます。ユミルが殺された際、流れ出た血によってベルゲルミルとその妻を除くすべての巨人が溺死したと伝えられています。

三神はユミルの遺体を解体し、その体から世界を創造しました。彼の血は海や川となり、肉体は大地となり、骨は山となり、歯と骨片は岩石となりました。髪の毛は草木となり、まつ毛はミズガルズ（人間界）を囲む防壁となりました。頭蓋骨は天となり、ノルズリ、スズリ、アウストリ、ヴェストリという小人によって支えられています。脳髄は雲となり、残った腐敗した肉体からは蛆が湧き、それが人型と知性を得て妖精になったとされています。

ユミルの名の由来と解釈

「ユミル」という名前は、インド神話に登場するヤマ（閻魔大王）と同語源であると考えられています。H.R.エリス・ディヴィッドソンは、ユミルの名を「混成物」や「両性具有」と解釈し、彼を一人で男性と女性を生み出すことのできる存在、さらには人間と巨人の始祖と捉えることができると述べています。

ユミルの物語は、世界の創造と生命の起源を語る上で、北欧神話において非常に重要な位置を占めています。

参考文献

H.R.エリス・デイヴィッドソン(en)『北欧神話』米原まり子、一井知子訳、青土社、1992年、ISBN 978-4-7917-5191-4。
V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。

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