ユングヴィ

ユングヴィ：北欧神話のフレイとゲルマン世界の繋がり

北欧神話において、神フレイは「ユングヴィ(Yngvi)」という古い名で知られています。「フレイ」は「支配者」を意味する称号とされ、ユングヴィこそがフレイの真名であった可能性が高いと考えられています。このユングヴィは、ゲルマン世界の神話や文化とも深く関わっており、その多様な側面を探ることで、北欧神話の理解が深まります。

ゲルマン世界の痕跡：イングとインガエウォネース族

ユングヴィは、ゲルマン民族の祖先神であるイング（Ing）と同一視されることがあります。ローマの歴史家タキトゥスの『ゲルマニア』には、マンヌスの三人の息子のうちの一人としてイングの名が登場します。特に、北海沿岸に住んでいたインガエウォネース族は、イングをその祖先として崇めていたと考えられています。このことは、ユングヴィが単なる北欧神話のみに留まらない、より広範なゲルマン世界に根付く存在であった可能性を示唆しています。

ルーン文字とイング：古語の痕跡

古くからのルーン文字には、「ŋ」を表す文字が存在し、ゲルマン祖語では「inguz」、古英語では「Ing」と呼ばれていました。この「Ing」は、イング神（Ingwaz）を指すと解釈されています。古英語のルーン詩には、イングについての記述が残されており、その行動や称号について、詩的な表現で語られています。例えば、イングが東の海を渡ったこと、そして戦士たちから英雄と称えられたことが記されています。これらの記述は、イング神が単なる祖先神ではなく、航海や英雄譚といった物語の中心的な存在であった可能性を示しています。

北欧神話におけるユングヴィ：王朝と王権

北欧神話において、ユングヴィはスウェーデン王家の祖先とされるユングリング家の始祖として位置づけられています。また、初期のノルウェー王家の血統とも繋がっているとされています。しかし、ユングヴィに関する情報は、様々な文献によって異なった記述が見られます。

『ユングリング家のサガ』と『デンマーク人の事績』: フレイの称号としての「フレイ」と、真名としての「ユングヴィ」が区別されています。フレイは「スウェーデン王」を意味する婉曲表現として用いられたとも解釈されています。
『ヘイムスクリングラ』: ユングヴィは、オーディンの子ニョルズの後を継ぎ、ユングリング家の始祖となります。
『アイスランド人の書』: ユングヴィはニョルズの父として登場し、「トルコのユングヴィ王」という異名を持っています。
『スキョルドゥンガ・サガ』: オーディンがアジアから北欧を征服し、ユングヴィにスウェーデン、スキョルドにデンマークを与えたとされています。
『ノルウェー史』: ユングヴィはスウェーデンの最初の王、ニョルズの父として描かれています。
『詩語法』: ユングヴィは古代の優れた王ハールヴダン老王の息子たちの中に含まれ、その子孫がユングリング家となることが記されています。また、「王」のケニング（隠喩表現）としても用いられています。

これらの文献の記述は、ユングヴィの役割や系譜について、様々な解釈を可能にしています。このことは、ユングヴィが単なる歴史的人物ではなく、神話と歴史の境界を曖昧にする存在であったことを示唆しています。

まとめ

ユングヴィは、北欧神話の神フレイの古名であり、ゲルマン世界の祖先神イングとも関連付けられる、多様な側面を持つ存在です。ルーン文字、北欧王家、そして様々な神話伝承との関わりを通して、ユングヴィは北欧神話の理解を深める上で重要な役割を果たしています。今後の研究では、これらの文献をさらに詳細に比較検討し、ユングヴィの真の姿に迫ることが求められます。

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