ヴォルス

ヴォルス（Wols, 1913年5月27日 - 1951年9月1日）は、20世紀前半に活動したドイツの画家であり、主にフランスで活動しました。本名はアルフレート・オットー・ヴォルフガング・シュルツェ（Alfred Otto Wolfgang Schulze）です。彼は20世紀の主要な前衛美術運動の一つである「アンフォルメル」の中心的画家と見なされ、抽象表現主義の先駆者とも言われていますが、特定の流派やグループに属することなく、放浪の人生を送りながら独自の芸術を追求しました。

生涯

ヴォルス、ことアルフレート・オットー・ヴォルフガング・シュルツェは、1913年にベルリンの裕福なプロテスタント家庭に生まれました。父親はワイマール共和国の高級官僚であり、当時の新しい絵画にも理解を示す教養人でした。幼少期からバイオリンを習い、絵画、写真、音楽など多岐にわたる才能を示していました。一家は1919年に父親の出身地であるドレスデンに移り、ヴォルスは少年時代の多くをそこで過ごしました。

1930年、ヴォルスは通っていた高校を退学処分となります。その理由は、ユダヤ系の級友をかばいすぎたためとされています。前年の1929年には父親が死去し、裕福な家庭に育ったヴォルスの生活は一変し、故郷を持たないボヘミアンとしての人生が始まりました。

高校退学後、彼はメルセデス・ベンツの工場で働いたり、写真家のスタジオで助手を務めたりしました。フランクフルトにあったレオ・フロベニウスのアフリカ研究所で民族学と人類学を学んだこともありますが、数ヶ月で去っています。その後、前衛的な美術教育機関であるバウハウスでパウル・クレーの指導を受けましたが、これも短期間で終わりました。

ナチスの支配を嫌ったヴォルスは、バウハウスのラースロー・モホイ＝ナジの勧めで1932年にパリに移住しました。パリではマックス・エルンストやジョアン・ミロなどの同時代の美術家と交流しましたが、ヴォルスが本格的に絵画制作を始めるのはもう少し後のことです。パリで後に妻となるグレティという女性と出会い、1933年には彼女と共にスペインへ旅立ちました。スペイン滞在中にドイツ軍への従軍通知を受けますがこれを拒否し、政治亡命者として生きることを選びます。バルセロナでは危険人物として投獄された経験もあります。

その後フランスに戻ったヴォルスは写真家として生計を立てようとしました。1937年のパリ万国博覧会では公式フォトグラファーに任命され、同年、パリのレ・プレイヤード画廊で写真の個展を開きました。この頃から、本名のWolfgang Shulzeを略したヴォルス(Wols)という名前を使い始めました。

第二次世界大戦が勃発した1939年、ヴォルスは敵性外国人として捕らえられ、収容所を転々としました。エクス＝アン＝プロヴァンスのレ・ミル収容所では、エルンストやハンス・ベルメールと共に過ごし、芸術活動が認められていました。ヴォルスが本格的に水彩画の制作を始めたのはこの頃です。1940年には、フランス国籍のガールフレンドであるグレティと結婚し、釈放されました。その後、カシやデュルフィで過ごし、終戦後にパリへ戻りました。

1945年、ヴォルスはパリのルネ・ドルーアン画廊で個展を開催しました。この頃からようやく美術家として評価されるようになります。ジャン＝ポール・サルトルはヴォルスの作品を高く評価し、ヴォルスはサルトルやアントナン・アルトーの作品の挿絵を担当しました。1947年にはドルーアン画廊で2回目の個展を開催し、画家としての名声は高まりました。しかし、常にラム酒を手放さなかったという彼の体はアルコール中毒に蝕まれ、健康は次第に悪化しました。1951年、腐った馬肉による食中毒が原因で死去。38歳という若さでしたが、不摂生の極みからか、その風貌は50歳くらいに見えたと言われています。

ヴォルスは特定の画派や芸術運動のグループに属さない孤立した存在でしたが、今日、その作品は第二次大戦後の主要な美術運動である「アンフォルメル」を代表するものと見なされており、抽象表現主義の先駆者とする見方もあります。

ヴォルスの作品の大部分は水彩の小品です。現存する作品のほとんどは第二次大戦勃発後の1940年代以降のもので、水彩が約1,000点あるのに対し、油絵は数十点にすぎません。彼の水彩作品は、細い線で細かく描き込まれ、都市風景、港、船などの光景の痕跡を残したものと、完全な抽象に近づいたものがあります。どちらの作品にも、作者の心象風景を視覚化したような、独特のイメージが満ちています。

脚注

関連項目

アンフォルメル
抽象絵画

もう一度検索