レ・ミル収容所

レ・ミル収容所の歴史

レ・ミル収容所は、フランス南部のエクス＝アン＝プロヴァンス近郊に位置し、第二次世界大戦中の1939年から1942年にかけて、約1万人の人々が収容された強制収容所です。この収容所は、元々レンガと屋根瓦の製造工場として1882年に建設され、1939年にフランス軍に徴用されました。収容された人々の中には、マックス・エルンストやハンス・ベルメールなど、ドイツ出身の多くの芸術家や知識人が含まれていました。

フランス第三共和政下（1939年9月 - 1940年6月）

1939年9月、第二次世界大戦が勃発すると、フランス政府は「国防・治安を脅かすおそれのある」人々を収容する法案を可決しました。これにより、ドイツ人とオーストリア人、特にナチスから逃れてきた人々やユダヤ人、芸術家などが敵性外国人として逮捕され、レ・ミル収容所を含む各地の収容所に送られました。レ・ミル収容所には、特に多くの芸術家や知識人が収容されたため、「レ・ミルのモンマルトル」と呼ばれることもありました。収容所の環境は厳しく、劣悪な衛生状態の中で、強制労働を強いられました。しかし、収容者たちは、その中でも芸術活動を続け、収容所の地下にある窯を舞台として、演劇や音楽、文芸活動を行いました。また、カール・ボデクが主導し、収容所の壁に描かれたフレスコ画は、収容者たちの創造性と苦悩を今に伝える貴重な遺産となっています。

レ・ミル収容所での芸術活動

収容所内では、規律が比較的緩やかな時期に、収容者たちは芸術活動を奨励されました。巨大な窯のある地下空間は「ディー・カタコンベ」と名付けられ、文芸サロン、劇場、コンサートホールとして利用されました。ここでは、演劇や音楽、講演会などが開催され、収容者たちは新聞『ラ・ポム・ド・テール（じゃがいも）』を発行しました。マックス・エルンストもここで収容され、《無国籍者》などの作品を制作し、ハンス・ベルメールと共同で《創作、想像の産物》を制作しました。ベルメールの肖像画には、レンガが頻繁に描かれ、収容所の環境を反映しています。

レ・ミル ― 自由の列車

1940年5月、ドイツ軍がフランスに侵攻すると、収容所の状況は一変しました。詩人・劇作家のヴァルター・ハーゼンクレーバーは、差し迫る危険に恐れて自殺しました。その後、シャルル・ゴリュション大尉は、収容者約2,500人を解放し、バイヨンヌへ向かう「自由の列車」を企画しました。しかし、バイヨンヌはドイツ軍の占領地域となったため、列車は内陸部のルルドに引き返しました。この出来事は、1995年に映画化され、『レ・ミル ― 自由の列車』として知られています。

ヴィシー政権下（1940年7月 - 1942年7月）

独仏休戦協定締結後、レ・ミル収容所には南西部の収容所からの抑留者が移送されました。主に、元国際旅団の義勇兵や、ラインラント＝プファルツ州などから追放されたユダヤ人が収容されました。収容所は、海外への移住のための通過収容所となり、緊急救助委員会 (ERC)などの支援団体が、多くの人々を米国などに亡命させる手助けをしました。しかし、この時期、収容所の環境は急速に悪化しました。

絶滅収容所への移送（1942年8月・9月）

1942年、ヴィシー政府はドイツの要請に応じ、自由地域から1万人のユダヤ人を強制収容所に移送することに同意しました。レ・ミル収容所からは、2,000人以上のユダヤ人がドランシー収容所やリヴサルト収容所を経由して、アウシュヴィッツなどの絶滅収容所に送られました。8月3日には収容所が閉鎖され、女性や子供を含む多くのユダヤ人が移送されました。収容所は一時的に通過所となり、残っていた抑留者も12月に移送されました。

記憶の継承

レ・ミル収容所は、フランスに残る唯一の大規模な強制収容所であり、1983年に歴史的記念物に指定されました。2012年には「レ・ミル収容所施設・記念館」が開設され、歴史の教訓を次世代に伝えるための活動が行われています。この記念館は、収容所での出来事を記録し、人々の苦しみと勇気を伝えることを目的としています。多くの著名人や団体がこの活動を支援しており、シモーヌ・ヴェイユは「彼らの苦しみと勇気を胸に刻み、彼らの最後の作品を守り続けよう」と述べています。2013年には、レ・ミル収容所財団とエクス＝マルセイユ大学によるユネスコチェア事業 が開始され、市民教育のための国際連携組織が結成されました。レ・ミル収容所は、過去の過ちを繰り返さないための重要な教訓を伝える場所として、その歴史と記憶は後世に受け継がれていくでしょう。

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