三井本館

三井本館：歴史と格式が息づく近代建築

三井本館は、東京都中央区日本橋室町に所在する、三井不動産が所有するオフィスビルです。かつて三井越後屋（現在の三越）があった場所に、旧三井財閥（三井グループ）の本拠として建設されました。その歴史的背景と建築様式から、日本の近代建築を代表する建物の一つとして知られています。また、團琢磨暗殺事件（血盟団事件）の現場となった場所としても、その名を知られています。

概要

最初の三井本館は、横河民輔の設計により1902年（明治35年）に竣工しました。しかし、関東大震災によって建物内部が焼失したため、三井合名は新たな本社建設を計画します。当時の社長であった三井八郎右衛門高棟は、「震災の二倍のものが来ても壊れないものを作るべし」と指示し、理事長の團琢磨は「壮麗」「品位」「簡素」という3つのデザインポリシーを掲げました。これらの理念を具現化するため、米国のトローブリッジ・アンド・リヴィングストン事務所が設計を担当し、ジェームズ・スチュワート社が施工を担当しました。ちなみに、トローブリッジ・アンド・リヴィングストン事務所は、團がモデルとしたアメリカのメロン・バンクも設計しています。

1926年（大正15年）に着工し、1929年（昭和4年）3月23日に竣工、同年6月15日に開館しました。総事業費は2,131万円と、当時の一般的な事務所ビルの約10倍のコストがかけられました。

完成した本館は、「アメリカン・ボザール」と呼ばれる新古典主義様式による鉄骨鉄筋コンクリート造で、地上5階（現在は7階）地下2階建てでした。当時としては、丸ノ内ビルヂング（丸ビル）に次ぐ規模の大きな建物でした。外壁には茨城県産の稲田石が使用され、道路に面した主要なファサードには、コリント式の列柱が整然と並び、水平コーニスと三井主要各社の業務内容を表現したレリーフが配されています。また、上階のセットバックによって、建物全体の重圧感が軽減されています。関東大震災の教訓から、震災の2倍の地震にも耐えられるように設計されており、内装にはイタリア産の大理石が使用され、エアシューターや全館完全空調が導入されました。三井銀行と三井信託の大金庫の扉は、米国モスラー社製で、重量が50トンもありました。そのため、陸上輸送の際に日本橋が崩落する恐れがあったため、新常盤橋の近くまで船で運び、そこから陸揚げされました。

竣工当初、本館には三井合名、三井銀行、三井物産、三井鉱山、そして新設された三井信託の5社が本社を置いていました。

1932年（昭和7年）3月5日、昭和金融恐慌の際にドル買い占めで批判された三井合名の理事長であった團琢磨は、本館入り口で血盟団の菱沼五郎によって狙撃され、命を落としました。

終戦後、1947年（昭和22年）まで4・5階の一部は、連合国軍最高司令官総司令部 (GHQ) に接収されました。

リニューアル

旧三井本館の管理室からスタートした三井不動産は、2003年（平成15年）4月に日本橋街づくり推進部を設置し、地域活性化と再開発事業に取り組み始めました。三井本館のある室町一構街区（約1.4Ha）においても再開発を行うことになりました。重要文化財に指定された三井本館は、容積率制度制定前に竣工したため、既存不適格となり、建て替えの際に容積が小さくなるという問題が生じました。この問題を解決するために、都が新たに重要文化財特別型特定街区を創設し、本プロジェクトが第1号指定を受けました。これにより、三井本館の床面積相当部分を割増容積として活用することが可能となり、隣接して建設された日本橋三井タワーは、500%の容積率割増が認められました。

日本橋三井タワーの建設と並行して、三井本館は「動態保存」「機能更新」「保存と開発の両立」をテーマとしたリニューアル工事が行われました。外壁洗浄と石補修、ライトコートの更新、エレベーター更新、空調や電気設備の更新が行われ、一部フロアが美術館とホテルに転用され、2006年（平成18年）3月に竣工しました。

施設構成

1階には、吹き抜けのある銀行の営業場があり、三井住友銀行日本橋支店、人形町支店、神田駅前支店、三井住友信託銀行日本橋営業部、東京中央支店があります。ドリス式の円柱が配され、桂頭、梁、天井には装飾が施されています。リニューアルによって、4階には日本橋三井タワー上層部に進出したマンダリン・オリエンタル東京の美容室や貸会議室などのホテル関連施設が入り、7階には三井記念[[美術館]]が設けられました。

逸話

戦後、GHQによって三井、三菱、住友の各財閥は解体され、それぞれの商号を使うことも禁じられました。しかし、各財閥がGHQと交渉した結果、最終的にそれぞれの商号を再び使うことが認められました。これを記念して、三井信託の玄関には三菱電機製のエレベーターが設置されました。

サイン

景観上の理由から、三井住友銀行のサインは通常の濃緑と白の看板ではなく、茶地に金色の文字で表記されています。

三井本館は、その重厚な建築様式と歴史的背景から、日本の近代建築を語る上で欠かせない存在です。現在もオフィスビルとして利用されながら、美術館やホテルなどの文化施設も併設されており、多くの人々に親しまれています。

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