世界の創造

世界の創造：ジャズとバレエの融合

『世界の創造』（La Création du monde）は、フランスの作曲家ダリウス・ミヨーが1923年に作曲したバレエ音楽であり、全1幕のバレエ作品です。この作品は、ミヨーがアメリカでジャズに出会ったことがきっかけとなり、従来のクラシック音楽の枠を超えた新たな音楽表現に挑戦した意欲作として知られています。アフリカ人の視点から描かれた天地創造を主題とし、ブレーズ・サンドラールが台本を、ジャン・ボルランが振付を担当しました。フェルナン・レジェによる舞台美術も独特の世界観を演出し、初演は1923年 10月25日にパリのシャンゼリゼ劇場で行われました。

ミヨーとジャズの出会い

ミヨーは1922年、アメリカ訪問中にハーレムで本場のジャズを初めて聴き、大きな衝撃を受けました。それまでブラジルの大衆音楽を取り入れて成功を収めていたミヨーは、新たな音楽の可能性をジャズに見出したのです。当時、パリでは芸術とサブカルチャーの融合が盛んであり、アフリカの文化に対する関心も高まっていました。ミヨーもその流れに乗り、ジャズの音楽語法を取り入れた作曲に挑みました。

作品の特徴

『世界の創造』は、サクソフォーンを含む17人の小オーケストラによって演奏されます。ミヨーは、ジャズのブルースやスウィングのリズム、ストンプ風のスタイルを巧みに取り入れ、独自の音楽世界を構築しました。また、この作品には、後にピアノ五重奏版も作成されました。

バレエとしての変遷

初演時の振付はあまり普及せず、その後、数々の振付家によって新たなバージョンが制作されました。N・ド・ヴァロア版、T・ボレンダー版、K・マクミラン版などがその例です。しかし、現在ではバレエとして上演される機会は少なく、純粋な管弦楽曲として演奏されることが一般的です。

音楽構成

作品は、以下の6つの楽曲で構成されています。所要時間は約15～20分です。

1. 序曲（Ouverture）
サクソフォーンの独奏で始まるレガート奏法が特徴です。
2. 創造の前の混沌（Le chaos avant la création）
コントラバス、トロンボーン、サクソフォーン、トランペットが、ジャズの主題によるフーガを奏でます。混沌とした世界の始まりが描かれています。
3. 動植物の創造（La naissance de la flore et de la faune）
神々が植物、動物を創造していく様子を描写します。フルートやチェロ、オーボエがブルースを演奏します。
4. 男女の誕生（La naissance de l'homme et de la femme）
動物たちが神の周りを回る中、男女が創造される場面です。ヴァイオリンがケークウォークを演奏します。
5. 男女の色恋（Le désir）
欲望にかられた男女の踊りが次第に熱狂的になっていく様子が描かれます。クラリネットのソロが活躍し、リズム楽器が盛り上がりを演出します。
6. 春または充足感（Le printemps ou l'apaisement）
野蛮な踊りが静まり、恍惚とした男女が残される場面です。フルートがフラッタータンギング奏法で旋律を奏で、ブルースで静かに幕を閉じます。

評価

初演時には「食堂かダンスホールにふさわしい」と酷評されることもありましたが、10年後のニューヨークでのオーケストラ公演では、ジャズが社会に浸透していたこともあり好意的に受け入れられました。また、ガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』よりも先に作曲された作品として、ミヨーは高く評価されることとなりました。

楽器編成

フルート2（第1フルートはピッコロと持ち替え）、オーボエ1、クラリネット2、ファゴット1、アルトサクソフォーン1、トランペット2、ホルン1、トロンボーン1、打楽器1名（ティンパニ5、シンバル、スネアドラム、テナードラム、プロヴァンス太鼓、ウッドブロック、メタルブロック、足踏み式のシンバル付バスドラム）、ピアノ、ソロヴァイオリン2、チェロ1、コントラバス1で構成されています。

参考文献

Julio Moreno Gonzalez-Applingによる修士論文「The ox in the concert hall: Jazz identity and La Création du monde」は、ミヨーの旅行歴、他のジャズ風クラシック曲との比較、米仏での作品の評価の違いについて論じています。