全州李氏

全州李氏：朝鮮王朝の礎を築いた名家

朝鮮半島における最大規模の氏族の一つ、全州李氏。その歴史、系譜、そして現代における存在感について深く掘り下げていきます。

輝かしい歴史と謎に包まれた起源

全州李氏の起源は、新羅時代に遡ります。系図上では、新羅の司空を務めた李翰を始祖としています。しかし、『朝鮮王朝実録』と全州李氏独自の記録である『完山実録』には、李翰の出自に関する食い違いが見られます。前者では新羅の官僚であったと記されている一方、後者では中国出身であると主張しています。この相違は、朝鮮半島の統一王朝である新羅、そして東アジアの中心であった中国に繋がりを持つことで、権威を高めるための策略であった可能性も示唆されます。

実際には、李翰は統一新羅時代から高麗時代にかけて全州地方に強い影響力を持っていた有力な地方豪族であったと推測されています。彼を始祖とする全州李氏は、やがて李成桂によって建国された李氏朝鮮の王族となり、朝鮮半島の歴史に大きな足跡を残しました。

李氏朝鮮と全州李氏

李氏朝鮮時代、王族は王朝機構の一部である宗簿寺によって厳格に管理されていました。これは王室の血統と権威を守るための重要な仕組みでした。現代においても、全州李氏の宗親会である「全州李氏大同宗約院」が存続し、宗廟祭礼祭などの伝統行事を継承しています。これは、長い歴史の中で培われた伝統とアイデンティティを現代に伝える重要な役割を担っています。

広がる氏族、そして集姓村

2015年の統計によると、全州李氏を名乗る人の数は2,631,832人に上ります。そのほとんどが「イ」と読みますが、「リ」と読む人も少数ながら存在します。人口分布を見ると、全羅北道完州郡に最も多くの人々が居住しており、その割合は総人口の約9.5%に達します。

さらに、全州李氏は複数の集姓村を形成しています。これは、同氏族の人々が特定の地域に集中して居住する村落であり、その歴史的背景や社会構造を反映しています。代表的な集姓村としては、京畿道漣川郡中面陶淵里、忠清南道扶余郡草村面楸陽里、全羅北道扶安郡扶安邑西外里、全羅南道羅州市金川面院谷里、慶尚北道聞慶郡加恩邑旺陵里などがあります。これらの地域では、全州李氏独特の文化や伝統が色濃く残っている可能性があります。平安北道定州郡、咸鏡南道北青郡、咸鏡北道吉州郡にも集姓村が存在した記録が残っています。

現代における全州李氏

全州李氏は、朝鮮王朝の歴史と深く結びついた氏族であり、現代においてもその影響力は依然として大きいと言えるでしょう。その歴史、文化、そして人々の生活は、朝鮮半島の歴史と文化を考える上で欠かせない要素の一つです。全州李氏大同宗約院の活動は、歴史と伝統の継承、そして氏族の結束を維持する上で重要な役割を果たしています。彼らは、歴史資料の保存や研究、そして氏族会員同士の交流などを通して、全州李氏のアイデンティティを未来へと繋いでいく努力を続けています。今後の研究においては、集姓村における生活文化や伝統芸能の調査、そして全州李氏と他氏族との関係性の解明などが重要な課題となるでしょう。

参考文献

* 李成茂 著、金容権 訳『朝鮮王朝史（上）』日本評論社、2006年。

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