八味地黄丸

八味地黄丸（はちみじおうがん）

八味地黄丸は、『金匱要略』を原典とする漢方薬で、別名、八味丸、腎気丸、八味腎気丸とも呼ばれます。

効果・効能

八味地黄丸は、腎（生殖器を含む）の機能低下を改善することを目的とします。具体的には、以下の症状に効果が期待できます。

下半身の疲労感、脱力感
多尿、頻尿、尿量減少
腰痛
手足のほてり、または冷え
口の渇き

これらの症状を伴う、膀胱炎、前立腺肥大、腎炎、高血圧症、糖尿病、陰萎などに応用されます。また、腰部脊柱管狭窄症にも効果があることが知られています。

保険適用エキス剤の効能・効果

保険適用されているエキス剤の場合、以下の症状に効果・効能が認められています。

疲労感、倦怠感が著しい
尿量減少または頻尿
口渇
手足に交互に冷感と熱感がある

これらの症状を伴う、腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧などが適応となります。

組成

八味地黄丸は、以下の8つの生薬から構成されています。

地黄（ジオウ）: 6.0g
山茱萸（サンシュユ）: 3.0g
山薬（サンヤク）: 3.0g
沢瀉（タクシャ）: 3.0g
茯苓（ブクリョウ）: 3.0g
牡丹皮（ボタンピ）: 2.5g
桂皮（ケイヒ）: 1.0g
附子末（ブシ末）: 0.5g

これらの生薬が組み合わさることで、八味地黄丸特有の効果を発揮します。

処方名について

八味地黄丸の名前は、上記の8つの生薬で構成されていることに由来します。ただし、『金匱要略』には「八味地黄丸」という名称はなく、「八味腎気丸」または「腎気丸」として記載されています。

「腎気」とは、腎臓の正気を意味し、中国伝統医学では腎に生殖器も含まれます。「腎気丸」は、腎の精気を補うことを目的としています。

主薬である地黄は、五行で水、腎に配当される黒色の生薬であり、後世になって「八味地黄丸」と呼ばれるようになったと考えられています。

慎重投与

以下の患者さんには慎重な投与が必要です。

体力の充実している患者
暑がりで、のぼせが強く、赤ら顔の患者
著しく胃腸の虚弱な患者
食欲不振、悪心、嘔吐のある患者

副作用

主な副作用として、以下のものが報告されています。

発疹、発赤、掻痒
肝機能障害
食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐
下痢、便秘
心悸亢進
のぼせ
舌のしびれ

これらの症状が現れた場合は、医師または薬剤師に相談してください。

薬効薬理

八味地黄丸の作用機序として、以下のものが示唆されています。

アルドースレダクターゼ活性阻害作用
テストステロン濃度増加作用

また、実験的な研究により、以下の効果が確認されています。

糖尿病抑制作用
循環器系に対する作用（血管弾性率低下抑制、大動脈中のカルシウム・コラーゲン含量上昇抑制）
骨代謝に対する作用（骨量低下抑制、骨形成率上昇）
造精機能改善作用
利尿作用
血圧降下作用
* 腎臓保護作用

八味地黄丸と徳川家康

徳川家康は、八味地黄丸の変方である「無比山薬丸」に海狗腎（カイクジン：オットセイのペニス）を加えた処方を愛用していました。この処方は、家康専用の薬箱の8段目に保管されていたと言われています。

「八の字」という通称は、覚えやすく、他薬との間違いを防ぐための工夫であり、医療事故防止に繋がったと考えられています。

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