南津電気鉄道

南津電気鉄道の概要

南津電気鉄道は、東京府南多摩郡由木村大字鑓水（今の八王子市鑓水）に本社を置いていた鉄道事業者です。主に南多摩郡と神奈川県津久井郡を繋ぐ鉄道路線の建設を目指して設立された会社でしたが、最終的には未成線に終わりました。戦後、京王相模原線が計画していたルートに近い形で開業したことや、京王バス南大沢営業所の運行するバス路線が「絹の道」を経由していたことも、鉄道敷設計画の実現が幻となった要因の一つです。

歴史的背景

鉄道敷設に対する関心が高まった大正末期、1922年に玉南電気鉄道が設立され、1925年には府中駅から東八王子駅間（今の京王線）が開業しました。この時期、多摩地域でも鉄道計画が盛り上がりを見せ、鑓水エリアは生糸の集散地として栄えました。この地で取引された生糸は「絹の道」を通じて横浜港へと運ばれ、地域繁栄の一因となりました。

1923年の関東大震災によって被害を受けた鑓水出身の大塚卯十郎は、故郷の発展のために交通の便を向上させる必要性を実感し、鉄道建設の構想を抱くこととなります。大塚は村民と共に、鉄道開通を期待し合意形成を図りました。1924年の12月には、鑓水の永泉寺で南津電気鉄道設立に向けた集会が開かれ、鉄道省と東京府に敷設免許を申請することになりますが、1925年には却下されます。その後、1926年には正式に鉄道敷設免許を取得しました。

計画内容

南津電気鉄道の計画は、約16kmの距離で多摩一の宮（現在の多摩市一ノ宮）から由木村、鑓水を経て津久井郡川尻村までを結ぶものでした。当初、狭軌での敷設を予定していましたが、後に改軌が行われ、乗り入れ計画は頓挫しました。その後、東京多摩川電鉄との提携を考慮に入れ、他の路線との接続を目指す計画が浮上しました。

1927年には南津電気鉄道株式会社が設立され、資本金100万円で事業がスタートしました。用地の取得も進み、1928年には鑓水本社前で起工式を挙行し、最初の区間として鑓水から町田市の堺村小山地区までの約3kmの工事に取り掛かります。一部のレールも敷設され、準備が進んでいました。

計画の頓挫と解散

しかし、1929年の世界恐慌の影響で生糸価格が暴落し、経済状況が悪化すると、会社は資金繰りに苦しむことになりました。株主の多くが地元商人や農家であったため、会社の運営は続かず、1933年には鉄道敷設免許が失効し、同年8月には会社の解散が決まりました。その後、1934年に正式に解散が承認され、南津電気鉄道は歴史の幕を下ろしました。

現在の影響

戦後、多摩ニュータウンが開発される過程で、南津電気鉄道が予定していた地域は新たな住宅地として生まれ変わります。多摩ニュータウン学会の専門家によると、南津電気鉄道が開通していれば地価に影響を与え、開発の進行にも変化があったかもしれないと指摘しています。今でも八王子市鑓水には、南津電気鉄道の逸話を伝える道標が残されており、その名残を感じることができます。

年表

このように、南津電気鉄道は計画の途中で頓挫しましたが、地域の歴史と人々の記憶に名を刻んでいます。

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