広島大学旧理学部1号館

広島大学旧理学部1号館は、広島市中区東千田町の東千田公園内にある被爆建物です。この建物は、かつて広島文理科大学の本館として使用されていたもので、原爆の被害を免れ、戦後の広島大学の発展を見守ってきました。現在では老朽化が進み、立ち入り禁止となっていますが、その歴史的価値から保存に向けた取り組みが行われています。

概要

旧理学部1号館は、国道2号線や広島市道駅前吉島線、広島県道243号広島港線に面した東千田公園内に位置しています。1931年に鉄筋コンクリート構造の3階建てで竣工し、コの字型の美しい外観を持っていました。しかし、1945年の原爆投下により被爆し、内部は焼失しましたが、建物自体は倒壊を免れました。戦後、広島大学に引き継がれ、1991年まで理学部の校舎として利用されました。その後は国立大学財務・経営センターが管理していましたが、2010年に広島市に移管され、東千田公園の一部となりました。

被爆後、広島大学の多くの建物が取り壊される中、旧理学部1号館は数少ない現存する被爆建物の一つとしてその姿を残しています。しかし、老朽化が著しく、安全上の問題から立ち入りが禁止されており、内部公開もされていません。現在は、耐震補強などの保存に向けた協議が進められています。

沿革

文理大本館の竣工・増築

広島大学の前身の一つである広島文理科大学は、1929年に東千田町に開学しましたが、校舎の建設が間に合わず、当初は隣接する広島高等師範学校の校舎を間借りしていました。1930年に本館の建設が始まり、1931年に一部が竣工。コの字型の3階建ての建物には、各学科の教室や研究室が移転しました。設計は文部省大臣官房建築課の西村勝氏が担当し、施工は大倉土木が行いました。その後も増築工事が進められ、1933年には現在のヨの字型の建物が完成しました。当時としては非常に大規模な建物で、玄関ホールや腰壁には大理石が使われていました。

戦時下の文理大本館と被爆

1945年6月、大学本館の一部が中国地方総監府に接収されましたが、その直後に原爆が投下され、爆心地から1420メートルの位置にあった本館は、1階の一部を除き全焼しました。しかし、建物自体は残ったため、1946年までに補修工事が行われ、文理大は本館での活動を再開しました。被爆当時、暗闇の中で避難した人々が壁に残した血痕は、1958年の改修時に切り取られ、保存されました。また、正面の大時計は8時15分を指したまま止まっていましたが、1965年頃に修理不能となり交換されました。

新制移行から現在まで

新制大学への移行に伴い、旧文理大本館は1949年に広島大学理学部1号館として利用されることになりました。キャンパスの中央には、初代学長の森戸辰男にちなんで「森戸道路」と名付けられた道路が建設され、本館まで続いていました。理学部1号館は、隣接する旧高師附属国民学校校舎と共に、初期の広島大学を支える重要な役割を果たしました。また、文理大の事実上の最後の学長であり、戦後は教育学部教授となった長田新が『原爆の子』の編纂を行ったのもこの建物でした。

しかし、建物の老朽化が進み、1985年頃から壁面のタイルが剥がれ落ちるようになりました。各学部の東広島キャンパスへの移転が進む中、1991年に理学部が移転し、旧理学部1号館は空き家となりました。現在、東千田キャンパス（旧広大本部キャンパスの一部）の施設を除き、周辺の建物はすべて撤去され、跡地は「東千田公園」として整備されました。旧理学部1号館は、ほとんど補修されないまま被爆建造物として保存されています。

公園の入り口にある石柱は、文理大と高師の正門として1935年に設置されたもので、被爆建造物です。また、血痕が付着した壁面タイルは、被爆時の状況を示す貴重な遺物として、移転先の理学部校舎で保存・展示されています。

現状

建物保存

旧理学部1号館は、1991年に完全に閉鎖されました。1993年には、広島市によって被爆建物台帳にリストアップされました。2014年の調査では、建物が震度6の地震で倒壊する可能性があると診断され、耐震工事の必要性が指摘されています。

跡地利用

広大本部キャンパス跡地は、1997年に開催された「全国都市緑化フェア」の会場となり、その後「東千田公園」として整備されました。この際、旧理学部1号館以外の施設は撤去されました。緑化フェア終了後、跡地利用計画がいくつか検討されましたが、用地買収費や被爆建物の保存という問題から、実現には至りませんでした。2006年には、市と広島大学が「ひろしまの『知の拠点』再生プロジェクト」を発足させましたが、アーバンコーポレーションの経営破綻により計画は一時中断しました。その後、市が再計画案を発表し、2010年に被爆建物は市が管理する東千田公園の一部となりました。現在では、広島平和記念公園の「原爆の子の像」に展示しきれない折鶴を保存展示する場所の候補としても検討されています。2013年には、三菱地所レジデンスを中心とした企業グループによる再開発事業が決定し、2018年までに「広島ナレッジシェアパーク」として完成しました。

旧・広大キャンパス内のその他の被爆建造物

原爆投下時、広島市内には広島文理大を含む8つの旧制学校が存在しました。これらの学校の多くは木造だったため、原爆で倒壊・焼失しましたが、一部のRC造の建物は被爆後も残りました。広島市がまとめた被爆建造物の調査報告書では、旧理学部1号館を含め6つの建造物が記載されています。しかし、ほとんどは解体され、現存するのは（旧制）広島高等学校講堂と正門門柱のような比較的小規模なものに限られています。

交通

鉄道: 広島電鉄宇品線「日赤病院前」電停下車
バス: 広島バス21号線・50号線「日赤前」下車

周辺施設

広島大学東千田キャンパス
広島赤十字・原爆病院
タカノ橋商店街
広島市役所
広島県情報プラザ
広島市立千田小学校
広島電鉄本社
修道中学校・高等学校

広島大学旧理学部1号館は、被爆の歴史を伝える重要な遺構であり、その保存と活用が今後の課題となっています。

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