張嶷

張嶷（ちょう ぎょく）

張嶷（ちょう ぎょく、生没年不詳）は、後漢末期から三国時代の蜀漢に仕えた武将です。字（あざな）は伯岐（はくき）。益州巴西郡南充国県（現在の四川省南充市南部県）の出身です。貧しい家に生まれましたが、若くしてその勇猛さと人並み外れた志で知られるようになりました。

生涯

20歳で県の功曹（こうそう）となった張嶷は、建安20年（215年）、劉備が益州を平定した際に山賊が県を襲撃した際、県令が家族を捨てて逃げる中、自ら危険を冒して県令の家族を救い出しました。この功績が劉備に認められ、従事（じゅうじ）に任じられます。同時期に同郡で名声のあった龔禄（きょうろく）や姚伷（ようちゅう）とも親交を深めました。

建興5年（227年）には、広漢郡綿竹付近で山賊の張慕（ちょうぼ）らが蜂起した際、討伐の任に当たります。しかし、正面からの武力討伐が困難と判断した張嶷は、偽って和睦を申し出て山賊を酒宴に誘い込み、自ら側近を率いて張慕ら50余りの首を斬るという大胆な作戦を成功させました。

その後、牙門将軍（がもんしょうぐん）に任じられ、庲降都督（らいこうととく）の馬忠（ばちゅう）の副将として、西南夷（せいなんい）や羌族（きょうぞく）などの異民族討伐に貢献します。特に南夷の劉冑（りゅうちゅう）が反乱を起こした際には、馬忠に従って常に先陣を切って戦い、劉冑を討ち取るという武勇を見せました。牂牁（そうか）・興古（こうこ）の異民族が反乱を起こした際には、馬忠から軍の指揮を任され、彼らを降伏させ、兵2000人を漢中に送りました。

諸葛亮（しょかつりょう）の死後も南中に駐屯し、延熙3年（240年）には、長らく機能していなかった越巂郡（えつぜいぐん）の太守に任命されます。赴任後、張嶷は恩徳と威信をもって多くの部族を帰順させ、従わない部族は計略をもって打ち破り、郡の機能を回復させました。

蘇祁族（そきぞく）の族長である冬逢（とうほう）とその弟である隗渠（わいきょ）が再び反乱を起こした際には、冬逢を討ち取りますが、冬逢の妻が旄牛族（ぼうぎゅうぞく）の王女であったため、一計を案じてこれを許します。隗渠は西境に逃亡しましたが、張嶷は偽って降伏してきた隗渠の側近を利用して隗渠をおびき出し、暗殺に成功しました。隗渠の死後、諸部族は安定を取り戻しました。

漢嘉郡（かんかぐん）の旄牛族の狼路（ろうろ）が父の仇を討とうとした際には、近親者を派遣して懐柔策を講じ、狼路を服属させました。さらに、狼路を旄牛㽛毗王（ぼうぎゅうきゅうびおう）に封じ、朝貢させることに成功しました。これらの功績により、撫戎将軍（ぶじゅうしょうぐん）に昇進し、引き続き郡の統治を任されました。

また、斯都（しと）の耆帥（きすい）である李求承（りきゅうしょう）を捕らえて処刑し、塩鉄を産出する三県の統治に乗り出すなど、軍事・行政両面で優れた手腕を発揮しました。これらの功績が認められ、盪寇将軍（とうこうしょうぐん）に任じられ、関内侯（かんないこう）を賜りました。異民族からの信頼も厚く、中央への召還が決まった際には、多くの人々が別れを惜しんだと言われています。

晩年は病に苦しみながらも、姜維（きょうい）の北伐に従軍し、魏の徐質（じょしつ）との戦いで戦死しました。多くの異民族が彼の死を深く悼み、廟を建てて祀りました。

最後の出陣に際して、張嶷は劉禅（りゅうぜん）に対し、国への忠義を誓う別れの言葉を述べ、劉禅を感動させました。

人物

張嶷は人物を見抜く才能にも長けており、氐族（ていぞく）の王である苻健（ふけん）の帰順や、費禕（ひい）の暗殺の危険性、呉の諸葛恪（しょかつかく）の失脚などを予見しました。また、夏侯覇（かこうは）との交流を慎重に避け、道理を重んじる人物であったと評されています。

墓所

陝西省漢中市に墓があり、墓碑は漢中市博物館に保存されています。

張嶷は、蜀漢の安定と発展に大きく貢献した名将として、後世に語り継がれています。

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