日本民藝館

日本民藝館：民衆的工芸の美を伝える

日本民藝館は、東京都目黒区駒場にある美術館です。1936年、民藝運動の創始者である柳宗悦によって設立されました。現在では公益財団法人として運営され、館内には日本民藝協会も併設されています。

柳宗悦と民藝運動の軌跡

柳宗悦は、宗教哲学者であり美術研究家でもありました。彼は、それまで美術史において正当に評価されてこなかった、無名の職人による日用品や工芸品に美を見出しました。焼き物、染織、漆器、木竹工など、日本各地の民衆的な工芸品、そして朝鮮王朝時代の美術工芸品や木喰の仏像など、多様な作品を収集し、その美を世に広める活動に尽力しました。これが民藝運動の始まりです。

柳宗悦は、1914年に朝鮮陶磁研究家の浅川伯教との出会いをきっかけに朝鮮の美術に深く関心を抱くようになり、1921年には東京で「朝鮮民族美術展覧会」を開催しました。さらに1924年には、ソウルの景福宮内に「朝鮮民族美術館」を開設するなど、朝鮮の独自の文化の保護にも尽力しました。

1923年の関東大震災を機に京都に移り住んだ柳宗悦は、濱田庄司や河井寛次郎らとの交流を深め、日本の各地を調査旅行しました。その中で、江戸時代の遊行僧・木喰の仏像や、イギリスのスリップウェア、京都の朝市で出会った「下手物」など、様々な民衆的な工芸品に接し、民藝という概念を確立していきました。

1926年には、濱田庄司、河井寛次郎、富本憲吉と共に「日本民藝美術館設立趣意書」を発表。美術館設立構想は、帝室博物館（現在の東京国立博物館）への寄贈が拒否されたことをきっかけに、官に頼らず自ら設立するという強い意志から生まれたものでした。スウェーデンの博物館を視察した経験も、構想に大きな影響を与えています。1931年には浜松市に日本民藝美術館を開館しましたが、1933年に閉館。その後、1936年に現在の駒場に移転し、日本民藝館として開館しました。

開館から現在まで

開館当初は、水田と竹やぶに囲まれた東京郊外に位置していましたが、現在は駒場公園に隣接し、東京大学駒場キャンパスなど文教地区の中心に位置しています。

開館以来、戦争による一時閉鎖やGHQによる接収といった困難も経験しましたが、関係者の尽力により活動を続け、戦後は皇族も訪れるなど、多くの人々に親しまれてきました。柳宗悦の没後は、濱田庄司、柳宗理、小林陽太郎と、各分野で著名な人物が館長を務め、現在も民藝運動の理念を受け継ぎながら、活動を続けています。1982年には新館が竣工、2002年から2006年には大規模な改修が行われました。

コレクションと展示

日本民藝館のコレクションは、絵画、陶磁器、漆器、染織品など多岐に渡ります。柳宗悦は、品物の伝来や由緒にこだわらず、自身の直感で美しいと感じるものを収集しました。彼の美意識は「生活の中の美」「実用に即した器物の美」であり、それは「正しい工藝品」「健康の美」「正常の美」と表現されるものでした。

コレクションの特色として、朝鮮半島の白磁、染付などの陶磁器、朝鮮民画、初期伊万里の染付、古丹波焼、大津絵、木喰の仏像、沖縄の染織品、東北地方の染織品、イギリスのスリップウェア、そして濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチといった民藝運動に関わった作家の作品などが挙げられます。

特に大津絵のコレクションは充実しており、柳宗悦が収集した作品に加え、大津絵コレクターであった米浪庄弌からの寄贈品も多く含まれます。館内では、展示品の名称は小さな板に手書き文字で書かれ、解説は一切添えられていません。これは、知識の前にまず無心に作品と向き合うべきだという柳宗悦の信条に基づいています。

本館は木造2階建ての蔵造り風建築で、大谷石を貼った外壁と白壁が特徴です。新館は鉄筋コンクリート造で、天井の高い特別展示室が設けられています。館内は純和風のインテリアで統一され、静かで落ち着いた雰囲気の中で、民藝の美を堪能できます。

施設とアクセス

本館の他に、旧柳邸宅である西館や、明治期の石屋根の長屋門などが残されています。西館は月に数回公開されています。

京王井の頭線駒場東大前駅から徒歩7分の場所に位置し、アクセスも良好です。開館時間は午前10時～午後5時、月曜日は休館です。

日本民藝館は、民藝運動の理念を体現する貴重な施設であり、日本の民衆的工芸の美を深く理解するための重要な拠点となっています。

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