曾子

曾子：孔子の高弟にして孝行の模範

曾子（紀元前505年没年不詳、字：子輿）は、孔子の高弟として知られる人物です。魯の南武城（現在の山東省平邑県）出身で、父は曾皙、子に曾申がいました。

孔子の教えと孝行への志

『論語』にもしばしば登場する曾子は、孔子の教えを忠実に受け継ぎ、特に孝行においてその優れ者ぶりを示しました。その深い孝心は孔子にも認められ、『孝経』の著者として名を残すこととなります。ただし、孔門十哲には含まれていません。

後世への影響と道統論

曾子の弟子には子思がおり、さらに子思の弟子に孟子がいたと伝えられています。この師弟関係は、後世の儒教における道統論において重要な位置づけを与え、特に南宋以降の朱子学では、四聖の一人「宗聖」として崇敬されるようになりました。

弟子との関係：呉起との決別

曾子は多くの弟子を育成しましたが、その中には『呉子』の著者として知られる呉起も含まれていました。しかし、呉起が母の葬儀を執り行わなかったことを理由に、曾子は呉起を破門したと伝えられています。この出来事は、曾子の孝行への強い信念を象徴する出来事として捉えられています。（ただし、呉起が曾申に師事し、破門したのは曾申であったとする説もあります。）

「曾参殺人」の故事と母との深い信頼

曾子に関する有名な逸話に「曾参殺人」があります。『戦国策』に記されるこの故事は、曾子の親族が人を殺した際に、誤って曾子が犯人だと曾子の母に繰り返し伝えられた結果、母でさえも疑い始めるという内容です。これは「三人成虎」と同様に、虚偽の情報を繰り返し聞かされることで、真偽を問わず信じ込んでしまう人間の心理を表現したものです。しかし、この故事は逆に、曾子と母との間に築かれた揺るぎない信頼関係が、当時の人々にとって常識であったことを示唆しています。

「齧指痛心」：母への深い愛情

曾子と母の絆を示すもう一つの有名な逸話に「齧指痛心」があります。曾子が柴刈りに出かけた際に客が訪れ、もてなしに困った母が、曾子の帰りを促すために自分の指を噛み続けたところ、曾子の胸に痛みが走り、急いで帰宅して客をもてなしたというものです。この話は『二十四[[孝]]』にも収録され、母への深い愛情と孝心を示す感動的な逸話として広く知られています。

曾子の著作：儒教における重要な経典

儒教の経典において、『孝経』は曾子、もしくは曾子の門人が孔子の言行をまとめたものとされています。また、朱子学では『大学』の著者としても認められています。さらに、『曾子』十八篇という著作があったとされていますが、現存はしていません。ただし、『大戴礼記』の中に「曾子」の名を冠する十篇があり、それらが『曾子』十八篇の一部である可能性が指摘されています。

まとめ：孝行の模範としての曾子

曾子は、孔子の教えを忠実に実践し、特に孝行において卓越した人物でした。その生き様は後世の儒学者に大きな影響を与え、『孝経』の著者、四聖の一人「宗聖」としての地位を確立しました。様々な逸話を通して、曾子の人となり、母との深い愛情、そして弟子たちとの関わりを知ることができます。曾子の生涯は、孝行の重要性、そして師弟間の深い絆を後世に伝える、貴重な歴史的遺産となっています。

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