本膳料理

本膳料理：武家の伝統と格式が漂う、かつての日本料理

本膳料理は、室町時代に武家の礼法から生まれ、江戸時代に高度な形式へと発展した、格式高い日本料理です。「食事」という行為自体に儀式的意味合いを強く持たせた点が大きな特徴です。現代では、その姿は冠婚葬祭などの特別な儀式における料理として、わずかに面影を残すのみとなっています。婚礼における三々九度などは、本膳料理の形式を受け継いでいると考えられます。しかしながら、現代の料理店では、用語の誤用も見られ、単なる会席料理や仕出し弁当に「本膳料理」の名を冠しているケースも少なくありません。また、茶会の宴会料理である「懐石」とは明確に区別されます。

歴史：平安時代の大饗から本膳料理の成立へ

日本の宴会の起源は、酒礼・饗膳・酒宴の三部構成に遡ります。中国や朝鮮半島からの影響を受け、酒礼には三献という儀式が取り入れられました。酒礼は一同に酒が振る舞われる儀式で、現代の乾杯に相当します。その後、飯汁を中心とした饗膳（膳、本膳）に移り、茶や菓子も含まれていました。平安時代には、祭礼や節会などで貴族の儀礼食である「大饗」が行われていました。正月や大臣の任官を祝う「正月大饗」「大臣大饗」などが有名です。

平安時代の饗宴では、肴や吸物は饗膳の菜・汁とは明確に区別されておらず、酒肴として一献ごとに芸能が奉納されるのが特徴でした。藤原頼長の『台記』には、保延2年（1136年）の大臣大饗の様子が記録されており、三献の作法をめぐる議論があったことが伺えます。大饗では、主人や客は兀子（ごっし）と呼ばれる椅子に着座し、大型の卓上に多くの料理が並べられ、複数の客が囲む共同膳の形式がとられていました。しかし、実際に客が口にする料理は一品ずつ配膳され、現代の本膳料理と同様に、前の料理を片付けてから次の料理に移る、時系列的な食事の進め方が行われていたと考えられます。

鎌倉時代には、「椀飯」という、御家人から将軍へ料理を献上する儀式がありました。室町時代になると、武家の勢力拡大とともに料理の品数も増え、豪華さが増していきました。南北朝時代には『尺素往来』に「本膳」「追膳」「三の膳」の記述が現れ、「本膳」という用語が登場します。室町時代には、主従関係を確認する杯を交わす「御成」が盛んになり、本膳料理が確立しました。この頃から「献立」という言葉が使われ始め、饗宴全体の飲食を指すようになりました。

本膳料理の形式：儀礼と数々の料理

本膳料理は、式三献、雑煮、本膳、二の膳、三の膳、硯蓋などで構成され、大規模な宴では七の膳まであった記録も残っています。本膳料理は少なからず儀礼的な要素を含んでおり、能や狂言などの演目が行われた後、うどんや素麺などの軽食や酒肴が供され、本格的な酒宴が始まりました。宴の期間は数日に及ぶこともあったようです。膳組は、一汁三菜から三汁十一菜まで、様々なバリエーションがありました。基本的には、本膳に七菜、二の膳に五菜、三の膳に三菜を配膳する形式です。ただし、菜の材料や器は、客の身分によって異なり、身分が高いほど豪華なものとなりました。

式三献は宴のはじめの酒礼にあたります。室町時代の記録によると、午後2時頃、主君が到着し、式三献が行われる「公饗の間」へ案内されました。式三献は、現代の結婚式における三三九度の原型とされています。本膳料理の特徴として、多くの料理が「見る」ための料理であり、神饌や仏供のように、飯や餅などが「高盛」と呼ばれる飾り盛で供されました。実際に食べられる料理は多くありませんでした。そのため、食べるための料理として「引替膳」が考案されました。

配膳は、上座の客から順に、最後に主人へと行われました。膳は、料理に呼気がかからないよう、両腕を伸ばして高めに持ち上げ、客の前に運びます。

本膳料理の専門家と作法：家元と礼法

室町時代中期には、複雑な本膳料理を専門に調理する料理流派が生まれました。「大草流」「進士流」などが有名で、師匠から弟子へ秘法が伝えられました。一方、礼法家も本膳料理の作法を定め、『食物服用之巻』などのハウツー本が作成されました。

硯蓋：宴の終わりを飾る、特別な献立

硯蓋は、江戸時代に現れた、甘味や保存食を盛った特別な献立です。当初は、硯の蓋に料理が盛られていたという説もあります。きんとん、羊羹、寒天菓子などの甘味や、蒲鉾、佃煮などの保存食が多く、賓客が持ち帰る習慣がありました。伊達巻も、硯蓋でよく供された料理の一つです。懐石料理の八寸に似ていますが、八寸は場で食べ切るのに対し、硯蓋は持ち帰りの習慣がありました。

本膳料理の現代：伝統の継承と再発見

明治時代以降は廃れてしまった本膳料理ですが、一部の料亭では、その伝統を再現した料理を提供しています。歴史と格式を感じさせる本膳料理は、日本の食文化における貴重な遺産と言えるでしょう。

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