椀飯

椀飯（おうばん）とは

椀飯（おうばん、埦飯、垸飯）とは、元来は他人をもてなす際の献立の一種でした。しかし時代を経るにつれて、饗応そのものを趣旨とする儀式や行事へと発展しました。

平安時代の椀飯

平安時代には、節会や節供といった宮中行事の際に、椀に高く盛った姫飯を中心に、酒肴や菓子などの副食物を添えたものが供されました。この椀飯には「殿上の椀飯」と「所々の椀飯」の2種類がありました。

殿上の椀飯: 殿上人が食するもので、折敷に飯器、汁器、盤、窪器、箸が載せられ、折櫃に菜、外居に菓子、小折敷に瓶子と杯が配されました。
所々の椀飯: 台盤所、滝口、武者所などの官人に振る舞われるもので、殿上の椀飯よりも簡略化されたものでした。台盤に飯器と箸が載せられ、折櫃に菜、外居に菓子が添えられました。

当時の椀飯は、あくまで公式な行事とは一線を画した、弁当や軽食に近いものでした。

鎌倉・室町時代の椀飯

院政期から鎌倉時代にかけて、椀飯は次第に儀式的な要素を帯びるようになります。国司の赴任の際に在庁官人らが椀飯を奉って歓迎する饗宴や、武士の間で元服や移徙などの重要な儀礼の際にも椀飯が行われるようになりました。特に、年始に行われる「歳首の椀飯」は、武家政権にとって最も重要な儀式の1つとされました。

源頼朝による鎌倉幕府の成立以後、椀飯は主従関係を再確認し、強固にする意味を持つようになります。鎌倉幕府では、元日より数日にわたり、北条氏をはじめとする有力な御家人が将軍に対して太刀、名馬、弓矢とともに椀飯を奉りました。

室町幕府においては、有力守護大名家の家督が将軍に椀飯を奉って会食を行う儀式となりました。大名家ごとに将軍の元に出向いて椀飯を奉る日付が定められ、元日は管領、2日は土岐氏、3日は佐々木氏、7日は赤松氏、15日は山名氏がそれぞれ担当しました。

当時の献立は、椀飯と打鮑、海月、梅干の3品に酢と塩を添えて折敷に載せて出すものでした。また、「庖丁」と称して将軍の御前で生きた魚を料理人に調理させて献じる趣向なども行われました。

江戸時代の椀飯

応仁の乱後、幕府における椀飯は衰退しましたが、一般の武家社会においては、家臣が主君を接待する儀式から、年始や節供などに主君が家臣を接待する儀式へと変化しました。

江戸幕府においては、年始に江戸在府の御三家が老中以下の幕閣や有力旗本を饗応し、町奉行が役宅で与力らを饗応することを椀飯と称しました。こうした風習は民間にも広まり、年始に親類縁者や友人知人を招いて馳走することを「椀飯振舞」「節振舞」と呼び、これが転じて「大盤振舞」という言葉の語源となりました。

このように、椀飯は時代とともに形を変えながら、日本の社会や文化に深く根付いていった儀式なのです。

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