法起寺

法起寺（ほうきじ、ほっきじ）

法起寺は、奈良県生駒郡斑鳩町岡本に位置する聖徳宗の寺院です。山号は岡本山、本尊は十一面観音。古くは岡本寺、池後寺（いけじりでら）とも呼ばれていました。聖徳太子建立七大寺の一つに数えられることもありますが、寺の完成は太子没後数十年後です。「法隆寺地域の仏教建造物」の一部として、ユネスコの世界遺産に登録されています。

寺号について

20世紀末頃までの文献では「ほっきじ」と読むのが一般的でしたが、現在、寺側では「ほうきじ」を正式な読み方としています。これは、法隆寺とともに世界遺産に登録されるにあたり、「法」の読み方を統一するため、当時の法隆寺管長であった高田良信氏が「ほうきじ」を正式としたためです。しかし、長年の慣れ親しみから、現在でも「ほっきじ」と呼ぶ人も少なくありません。

歴史

創建

法隆寺が所在する斑鳩の里には、法起寺の他に法輪寺、中宮寺など、7世紀に創建された古代寺院が数多く存在し、この地が古くから仏教文化の中心地であったことを示しています。法起寺は、法隆寺東院の北東、岡本の地に位置し、ここは聖徳太子が法華経を講じた「岡本宮」の跡地と伝えられています。太子の遺言により、その子である山背大兄王（やましろのおおえのおう）が岡本宮を寺に改めたのが、法起寺の始まりとされています。

その後、舒明天皇10年（638年）に福亮僧正が弥勒像と金堂を建立し、慶雲3年（706年）には恵施僧正が三重塔を建立しました。

天平19年（747年）の『法隆寺縁起』には「聖徳太子建立七寺」の一つとして「池後尼寺」が挙げられており、この池後尼寺が法起寺と同一の寺院であることを示す最古の資料は、宝亀2年（771年）の『七代記』です。この書には「法起寺、時の人喚（よ）びて池後寺とす」と記されています。また、この寺は「岡本寺」とも呼ばれており、天平勝宝2年（750年）の「造東大寺司牒案」にその名が見られます。9世紀に成立した仏教説話集『日本霊異記』には、「大和国平群郡鵤村岡本尼寺」の観音像にまつわる霊験譚が収録されており、岡本尼寺が聖徳太子の宮を寺に改めたものであることが記されています。

旧伽藍と前身建物

創建当時の建築物で現存するのは三重塔のみですが、1960年以降の境内の発掘調査により、金堂跡・講堂跡が検出され、中門についても瓦積基壇の跡が確認され、創建当時の伽藍配置が明らかになりました。旧伽藍は、金堂と塔が左右（東西）に並ぶ法隆寺西院の伽藍配置と似ていますが、法隆寺とは逆に金堂が西、塔が東に建つ形式で、「法起寺式伽藍配置」と呼ばれています。

発掘調査の結果、旧伽藍建立以前の掘立柱建物の遺構や石敷の雨落溝が検出されており、法起寺創建以前に何らかの前身建物が存在したことが確認されています。これが岡本宮ではないかと推定されています。法起寺の旧伽藍は南を正面とし、南北の中心軸に沿って建てられていましたが、前身建物や溝は南北の軸線より西に約20度傾いた軸線に沿って造られています。建物の中心軸が西に約20度傾いている点は、法隆寺の前身である若草伽藍跡とも共通しています。

「法起寺露盤銘」

三重塔の建立時期や寺の建立経緯については、鎌倉時代の記録である顕真の『聖徳太子伝私記』に引用されている「法起寺三重塔露盤銘」という史料が重要な手がかりとなっています。この銘によれば、聖徳太子は推古天皇30年（622年）に臨終の際、山背大兄王に岡本宮を寺に改めるよう遺言しました。その後、舒明天皇10年（638年）に福亮僧正によって弥勒仏を本尊とする金堂が建て始められ、恵施僧正によって天武天皇13年（684年）に塔が起工され、慶雲3年（706年）に完成したとされています。発願から塔の完成までには80年以上を要したことになります。

『聖徳太子伝私記』所収の「法起寺三重塔露盤銘」については、文意が不明瞭な部分があり、露盤の実物が現存しないこともあって、建築史学者の関野貞などが偽作説を唱えました。しかし、会津八一が1931年に発表した論文「法起寺塔露盤銘文考」の中で、史料批判的な見地から『聖徳太子伝私記』が露盤銘の文字を誤写している点を指摘し、銘文の復元案を提出しました。この会津の読解によって、露盤銘は信頼できる史料と認められるようになりました。建築様式の点からも、法起寺塔を慶雲3年（706年）頃の完成と見るのは妥当とされています。

奈良時代以降

奈良時代には隆盛を極めた法起寺も、平安時代には衰退し、法隆寺の傘下に入ります。鎌倉時代には三重塔や講堂が修理されましたが、室町時代には再び衰微し、江戸時代には三重塔を残すのみとなっていました。延宝6年（1678年）には真政圓忍とその弟子たちによって三重塔が修復され、元禄7年（1694年）には講堂が再建されました。文久3年（1863年）には聖天堂が建立されています。

明治維新後、真言宗に所属していましたが、1882年（明治15年）に法隆寺や興福寺と共に法相宗として独立し、法相宗の小本山となりました。1950年（昭和25年）に法隆寺が独立して聖徳宗を設立すると、法起寺も聖徳宗に改宗しています。

三重塔

国宝に指定されている三重塔は、高さ24メートルで、三重塔としては日本最古のものです。また、特異な形式の薬師寺東塔を除けば、日本最大の三重塔と言われています。日本の木造塔は方三間（正側面のいずれにも柱が4本並び、柱間の数が3つになるという意味）が原則ですが、この塔は初層・二層の柱間が3間、三層の柱間が2間という特殊な形式になっています。ほぼ同時代の法隆寺五重塔も最上部の五層の柱間を2間としており、法隆寺五重塔の初層・三層・五層の大きさが法起寺三重塔の初層・二層・三層にほぼ等しいことが指摘されています。心礎は、法隆寺五重塔や中宮寺塔跡の心礎が地中深く据えられているのに対し、法起寺では基壇の版築の途上で据えられており、これは法隆寺塔などより時代が新しいことを意味します。

この塔は江戸時代の延宝年間（1673年 - 1681年）の修理で大きく改造され、この時、三重の柱間も2間から3間に変更されていましたが、1970年（昭和45年）から1975年（昭和50年）の解体修理の際、部材に残る痕跡を元に、創建当時の形に復元されました。二重と三重の高欄（手すり）も解体修理時の復元です。

境内

講堂（本堂・観音堂） - 元禄7年（1694年）3月再建。
三重塔（国宝） - 慶雲3年（706年）建立。
聖天堂 - 金堂跡に文久3年（1863年）に再建。
鐘楼跡 - 基壇が残る。
池
南大門 - 江戸時代初期の再建、四脚門。
収蔵庫
庫裏
西門（表門）

文化財

国宝

三重塔

重要文化財

木造十一面観音立像 - 収蔵庫に安置。像高3.5メートル。10世紀後半の作。
銅造菩薩立像 - 像高20センチメートル。7世紀後半の作。奈良国立博物館寄託。

国指定史跡

法起寺境内

その他

奈良国立博物館蔵の絹本著色十一面観音像（平安時代、国宝）は法起寺旧蔵とされています。

札所

聖徳太子霊跡
16 法輪寺 - 17 法起寺 - 18 成福寺（廃寺）
大和北部八十八ヶ所[[霊場]]
51 法隆寺西堂 - 52 法起寺 - 53 法輪寺

所在地

〒636-0100 奈良県生駒郡斑鳩町大字岡本1873番地

アクセス

JR法隆寺駅下車、北東へ2.5km
奈良交通バス（81系統）8分「法起寺前」下車すぐ（土・日曜のみ）
近鉄郡山駅から奈良交通バス（50・97系統）18分「法起寺前」下車すぐ

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