笏

笏（しゃく）とは

笏（しゃく）は、日本の伝統的な装束である束帯を着用する際に、右手に持つ細長い板状の道具です。この笏は、単なる装飾品ではなく、持つ人の威儀を正し、儀式を円滑に進めるための重要な役割を担っていました。

起源と伝来

笏の起源は古代中国に遡ると考えられています。紀元前の古代ペルシャのレリーフにも同様のものが確認されており、世界各地で権威や儀礼の象徴として用いられていたことが伺えます。中国では、官吏が備忘のために書き付けをする板として使用されていましたが、6世紀頃に日本に伝来しました。当初、日本では笏の裏に式次第を書いた紙を貼り付けて用いていましたが、時代が下るにつれて、儀式の際に威厳を示すための道具としての意味合いが強くなっていきました。

笏の種類と材質

笏には、主に象牙製の「牙笏（げしゃく）」と木製の「木笏（もくしゃく）」の2種類があります。大宝律令では、五位以上の高位の者は牙笏、六位以下の者は木笏を使用すると定められていましたが、後には位階に関わらず、礼服着用の際にのみ牙笏を、普段は木笏を用いるようになりました。現代では、神職が儀式で用いるのは木笏が一般的です。

牙笏は、象牙や犀角を用いて作られ、木笏はイチイやサクラなどの木材で作られます。平安時代中期には、長さ1尺2寸、上部の幅が2寸7分、下部の幅が2寸4分、厚さ3分が標準的な大きさでした。しかし、使用者や用途によって形状が異なり、天皇は通常上下とも方形、神事には上円下方、臣下は通常上下ともに円形、慶事には上方下円の笏を用いることが定められていました。

笏の用途と関連儀式

笏は、儀式の際に持つだけでなく、笏拍子という楽器としても使われることがありました。饗宴の際に、音楽に合わせて自分の笏と他人の笏を打ち鳴らすことで、即興の打楽器として用いられました。後世には、拍子専用のより厚みのある笏が作られることもありました。

笏の読み方

笏の本来の読み方は「コツ」ですが、「骨」に通じるため、縁起が悪いとして忌避され、「シャク」と読むようになりました。「シャク」と読むようになった理由には諸説あり、柞（ははそ）の木で作られていたためその音が転じたとする説や、笏の長さが1勺（尺）であるためとする説があります。

神社祭祀における笏

現代では、笏は神職が儀礼を行う際に、威儀を正すために持つ道具として用いられます。明治以降の神職服制では、正装が衣冠と定められ、同時に採物として木笏を持つことが規定されました。女性神職の場合には、笏の代わりに扇が用いられることもあります。

一般の神社や宮中では、右手に笏を持つのが作法ですが、出雲大社では両手で持つという独自の伝統があります。また、出雲大社では、緊急時に祓具がない場合に、笏を「左右左」と振って修祓を行うという特殊な儀法も存在します。

笏法

神職が笏を使用する際には、「笏法」と呼ばれる作法が定められています。笏法には、「持笏（じしゃく）」「懐笏（かいしゃく）」「置笏（ちしゃく）」「把笏（はしゃく）」「正笏（せいしゃく）」の五つがあり、それぞれ笏の持ち方や扱い方が定められています。

海外の笏

笏は中国に起源を持つため、東アジア各国の歴代王朝にも同様のものが存在していました。それぞれの国で独自の発展を遂げたものの、儀礼具としての基本的な役割は共通しています。


関連語句

笏紙（しゃくがみ）：笏の裏に貼る紙
笏拍子（しゃくびょうし）：笏を楽器として用いること
* 王笏（おうしゃく）：王が持つ笏


笏は、日本の歴史と文化を語る上で欠かせない、重要な道具の一つです。その形状や材質、使用法には、古来からの伝統と知恵が息づいています。

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