罫線素片

罫線素片とは

罫線素片（けいせんそへん）とは、文字を組み合わせて罫線や表を表現するために作られた特殊な文字の集合体です。画像表示機能が限られていた初期のコンピュータ環境において、テキストベースで図形や表を表現する上で重要な役割を果たしました。現在では、Unicodeに収録され、世界中の様々な環境で利用されています。

概要

罫線素片は、グラフィック表示機能がないシステム、特にテキストユーザーインターフェース（TUI）において、文字だけで罫線を描くために考案されました。1979年にNECが大型機向けに実装したものが始まりで、その後、中国の国家規格GB2312（1980年）、日本の国家規格JIS X 0208（1983年）にも採用されました。

1980年代から1990年代にかけて、ワードプロセッサやNECのPC-98シリーズなどのパソコンで標準的に利用され、表や枠の表現だけでなく、簡単な図形の描画にも活用されました。

NECとは別に、マイクロソフトもIBM PC向けに罫線素片を開発し、1991年には両者の罫線素片がUnicode 1.0に収録されました。これにより、罫線素片は世界中のコンピュータで利用可能となりました。

グラフィック表示が可能な現代のコンピュータでは、罫線素片の利用頻度は減少しましたが、電子メールや電子掲示板など、文字しか使用できない環境では依然として重要な役割を担っています。

歴史

前史

プリンタが発明された当初は英数字しか印刷できませんでしたが、1955年に漢字を印刷できる「漢字プリンタ」が開発されました。当初は活字を押し付ける方式でしたが、1968年にドットプリンタが開発され、ドットマトリクスで表現できるあらゆる文字が印刷できるようになりました。

1970年代にはドットプリンタが普及し、文字だけで図表を表現するというニーズが高まりました。これが罫線素片登場の前提となりました。

NECの大型機および中国の国家規格で採用

1978年に日本で最初の文字規格であるJIS C 6226-1978が策定されましたが、罫線素片は含まれていませんでした。しかし、各メーカーは独自の拡張文字セットに罫線素片を実装し、帳票作成の利便性を高めました。

NECも独自の文字コードJIPSに罫線素片を実装し、ACOSで利用可能としました。NECは中国との交流もあり、罫線素片のアイデアを中国に紹介したところ、1980年に策定された中国の文字規格GB2312に採用されました。

日本では1983年に改正されたJIS X 0208で、中国の国家規格で採用されたNECの罫線素片が採用されました。韓国でも1987年に同様の罫線素片が規格化されました。

パソコンでの採用

NECのPC-9800シリーズでは、大型機で使われていたJIPSをベースとした文字セットが採用され、罫線素片が普及しました。

海外では、IBM拡張文字や、シンクレアZX80、ワング・ラボラトリーズのワープロ機などでも罫線素片が採用されました。IBM PCの文字セットをデザインしたビル・ゲイツは、ワングのワープロ機の文字セットを初代IBM PCに採用し、MS-DOSにも搭載されました。Apple IIcやUnix端末のVT220でも独自の罫線素片が採用されました。

国際規格での採用

1991年に策定されたUnicode 1.0では、IBM PC由来のものとJIS規格由来の両方の罫線素片が収録され、世界中のシステムで表示可能になりました。その後もUnicodeには様々な罫線素片が追加され続けています。

WindowsではUnicodeに対応したフォントで、WGL4に準拠することが推奨されていますが、JIS規格由来の罫線素片の一部が割愛されている場合もあります。

近い関係の物

歯科用特殊文字

JIS X 0213では、歯科検診で歯の状態を記録する際に使われる「歯科用特殊文字」が追加されました。以前は外字や罫線素片で代用されていましたが、JIS規格に取り込まれたことで、検索性などが向上しました。これらの文字はUnicode 3.2で「歯科用特殊記号」として収録されました。

ブロック要素

罫線素片は、ブロック要素と組み合わせて使用されることがあります。これにより、文字だけでGUIのメッセージボックスのような表現が可能になります。現代のOSではグラフィック表示が可能ですが、BIOS設定画面などでは罫線素片とブロック要素が使われている場合があります。

PC-98における罫線素片（98罫線）

NECのPC-9801シリーズで採用された罫線素片は、細罫線、太罫線、破線、二重線などを含みます。JIS X 0208-1983に収録された罫線とは形が同じですが、収録位置が異なります。

98罫線には、1バイトのものと2バイトのものがあり、NECの独自拡張文字であるため、他の環境では文字化けします。1993年のWindows 3.1では98罫線の収録が見送られましたが、同じ形のJIS83罫線がシフトJISやUnicodeに収録されています。

1バイト罫線素片

初期のPC-98シリーズでは、[ROM-BASIC]]のN88-BASIC]が標準搭載されていました。当時はJIS規格の[[文字コードではなく、独自の文字コードを採用していたため、1バイトで罫線を入力できました。しかし、MS-DOSが普及すると、シフトJISとの競合により1バイト罫線は使われなくなりました。

2バイト罫線素片

JIS C 6226の未定義領域に罫線素片が追加され、[N88-BASIC]だけでなく、シフトJISを採用したMS-DOSでも利用可能でした。しかし、マイクロソフトが機種依存の拡張を問題視したため、Windows 3.1では98罫線の収録が見送られました。

JIS X 0208における罫線

JIS X 0208では、8区に罫線素片が収録されています。これらの罫線は縦書き時には90度回転した字形になります。

JIS X 0213における罫線

JIS X 0213では、歯科用記号を表記するために必要な罫線が追加されています。これらの罫線は、下線や上線との組み合わせで使用できます。

Unicodeにおける罫線

Unicodeでは、U+2500からU+257Fの範囲に128種類の罫線素片が収録されています。また、歯科用の罫線素片はU+23BEからU+23CCに収録されています。Unicodeには、JIS X 0213やPC-98の罫線素片なども含まれています。

コード一覧

罫線素片のコード一覧は、JIS X 0213に含まれるものと含まれないものに分類されます。詳細はUnicodeの仕様書を参照してください。

関連項目

* テキストユーザインタフェース

まとめ

罫線素片は、初期のコンピュータ環境における重要なグラフィック表現手段でした。その歴史は、コンピュータ技術の発展とともに、様々な規格やコード体系の変化を経験してきました。現代のコンピュータではグラフィック表示が一般的になりましたが、罫線素片はテキスト環境における重要な情報表現手段として、今もなお活用されています。

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