豊渓里

豊渓里（プンゲリ）：失われた故郷

豊渓里は、北朝鮮北東部の咸鏡北道吉州郡に位置する町です。白頭山青年線豊渓駅があり、かつては2つの川が合流する自然豊かな地域でした。しかし、2006年10月9日に北朝鮮初の核実験が行われて以来、2017年までに計6回の核実験が実施された場所として、その名は世界に知られることとなりました。

核実験施設建設の裏側

脱北者である金平岡氏が韓国で出版した小説『豊渓里』によると、1970年代半ばまで、豊渓里は豊かな自然に恵まれた場所でした。林業を営む住民が生活し、強制収容所も存在していました。しかし、1978年に朝鮮人民軍工兵局が山間部を占有。1980年代末までに収容所や住民は移転を余儀なくされ、その跡地に核関連施設が建設されたのです。吉州郡内の住民の移転先である載徳駅周辺には、ロシアや東欧諸国出身の科学者が滞在する「研究者村」も作られました。

政治犯の動員と隠蔽

1970年代から1990年代にかけて、約1万人の政治犯が豊渓里を含む吉州郡の山々での建設工事に動員され、そのまま消息を絶ちました。動員されたのは、収容所の中でも最も過酷な環境にある「完全統制区域」として知られる「第16号管理所（化成強制収容所）」の政治犯たちでした。この収容所には、金日成一族の世襲制に反発した人々や、親日派とされた人々、あるいは「出身成分」が悪いとされた人々が家族ごと送り込まれました。核実験場のある吉州郡から山を越えた明澗郡に位置しています。

北朝鮮の公共工事は人海戦術が基本であり、多くの人員が動員されるため、工事に関する情報が外部に漏洩する可能性がありました。しかし、核実験場の建設工事に関しては、一切の情報漏洩がありませんでした。16号収容所の政治犯は、動員されたら二度と収容所に戻ることはなく、文字通り姿を消したのです。

工事の進捗状況に応じて政治犯たちが動員され、事故や工事の節目で人員が交代するたびに、機密保持のための虐殺が繰り返されたと推測されています。

放射能汚染の悲劇

核実験による放射能汚染は、豊渓里の住民に深刻な影響を与えました。かつては美味しくきれいな水と香り豊かなマツタケが自慢だったこの地で、人々は遺伝子変異、癌、不妊、奇形児といった健康被害に苦しむことになりました。身体が衰え、免疫力が低下した住民の間で感染症が広がり、谷間の住民の多くが命を落としました。

豊渓里は、核開発という国家の秘密裏に進められた政策によって、自然と人々の生活が破壊された場所として、歴史に刻まれています。

参考文献

金平岡 著、五十嵐真希 訳『豊渓里』徳間書店、2018年8月。ISBN 978-4-19-864674-5。

外部リンク

Google マップ - 地下核実験場があると言われている豊渓里(プンゲリ)

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