追分機関区

追分機関区（おいわけきかんく）は、かつて北海道勇払郡追分町（現在の安平町）に存在した日本国有鉄道（国鉄）の車両基地、すなわち機関区です。動力車が多数配置されていた時代を経て、後年は乗務員基地である追分運転区としてその機能を受け継ぎましたが、最終的に廃止されました。ここでは、その波乱に富んだ歴史と果たした役割について詳述します。

その起源は古く、1892年（明治25年）8月1日に北海道炭礦鉄道が岩見沢駅と初代室蘭駅を結ぶ路線を開業させた際、追分駅の構内に「追分機関庫」として開設されたことに始まります。その後、1906年（明治39年）10月1日の鉄道国有化を経て、1936年（昭和11年）9月1日には組織改編により札幌鉄道局追分機関区と改称されました。この間、夕張や苫小牧といった重要拠点にも関連施設が設けられています。

追分駅は、室蘭本線と夕張線（現在の石勝線）の合流点にあたる地理的な重要性から、古くから日本の近代化を支えた石炭輸送という重要貨物輸送の大動脈における要衝として栄えました。特に日本のSL（蒸気機関車）ブーム期には、全国の鉄道ファンから熱い注目を集める存在でした。その魅力は、様々な形態が存在した9600形や、煙突に特徴的なギースル・エジェクタを備えたD51形といった個性豊かな蒸気機関車が数多く集められていた点にありました。さらに、単機牽引で1000トンを超える重量級の貨物列車が日常的に運行されていたこと、そして何よりも、本州からSLが姿を消した後も多数の蒸気機関車が活躍を続け、国鉄において最後まで蒸気機関車が在籍した主要な「クラ」（車庫）の一つであったことが、多くのファンを引きつけました。

一方で、国鉄が推進した動力近代化計画は、追分機関区にも大きな影響を与えました。この計画による蒸気機関車の廃止とそれに伴う機関助士の失職への反発から、追分は国鉄労働組合や国鉄動力車労働組合といった労働組合の一大拠点と化しました。特に職を失う可能性があった機関助士たちを中心に、1970年代前半には激しい労働争議が頻発し、日常的な風景となっていました。こうした労使間の対立は、蒸気機関車の終焉にも影を落とし、国鉄における最終運転がいつになり、どの機関車がその任にあたるのかさえ、直前まで定まらないほどであったと伝えられています。

追分機関区に所属していた蒸気機関車は、D51形が1975年（昭和50年）12月24日、9600形が1976年（昭和51年）3月2日をもって本線での運用を終え、引退しました。これにより、1976年 3月31日には梅小路蒸気機関車館の動態保存機を除き、国鉄から蒸気機関車の配置がなくなりました。引退した一部の機関車は保存対象として、機関区のシンボルでもあった扇形機関庫に収蔵され、手厚く保管されていました。

しかし、無煙化完了からわずか2週間後の1976年 4月13日、その扇形機関庫で痛ましい火災が発生しました。この火災により、後継として配置されたばかりのディーゼル機関車8両に加え、保存対象だった蒸気機関車5両（D51形4両、9600形1両）が被災し、その多くが焼失しました。この火災で失われた機関車の中には、被災時点で同形式中最も新しかったDD51 1169号機のように、わずか半年強の短い活躍期間で姿を消した悲運の車両も含まれます。一方、一部の機関車、例えばDD51 681号機と1166号機は延焼前に搬出され、被災を免れました。多くの貴重な車両が失われる中、幸いにも保存対象ではなかったものの被災を免れた数両の機関車が現在も安平町鉄道資料館に保存され、往時を偲ぶよすがとなっています。また、全焼を免れたとされるD51 603号機は、先頭部がカットされて京都府の「ジオラマ・京都・JAPAN」で展示保存されています。

火災後、追分機関区は動力車の配置がない乗務員区となり、1981年（昭和56年）10月1日に追分運転区と改称されました。1987年（昭和62年）4月1日の国鉄分割民営化により北海道旅客鉄道（JR北海道）に承継された後も、運転士・車掌の基地として機能しました。組織名は追分運転所、岩見沢運転所追分派出所と変遷しながらも、その機能は維持されます。しかし、時代の流れと共に運転拠点の集約が進み、1992年（平成4年）7月1日には運転士の所属が追分駅に編入され、派出所組織はなくなりました。そして、2005年（平成17年）3月をもって追分駅所属の運転士も廃止され、その業務は岩見沢運転所に統合されました。これにより、1892年の機関庫開設以来113年間にわたり続いた、追分における運転拠点としての長い歴史に完全に幕が下ろされたのです。

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