金田城

金田城（かねだじょう）

概要

金田城は、長崎県対馬市美津島町に位置する古代山城で、国の特別史跡に指定されています。対馬の中央部、浅茅湾の西に位置する城山（標高276メートル）の山上に築かれました。飛鳥時代の天智天皇6年（667年）に築かれた朝鮮式山城であり、西日本各地に築かれた古代山城の中でも、朝鮮半島への最前線に位置づけられます。

近世には城の所在が不明となっていましたが、1922年と1948年の調査で場所が特定され、1985年以降に発掘調査が行われました。城は城山の地形を活かして築かれており、東斜面には城壁、城門、水門、掘立柱建物跡などが確認されています。特に、約2.8キロメートルに及ぶ石塁が城を一周しており、他の古代山城に見られる土塁主体の構造とは異なっています。出土品や遺構から、防人が居住していたことが示唆され、奈良時代までに廃城になったと考えられています。古代の対朝鮮半島防衛における重要な役割と、良好な保存状態から、当時の防人配備の実態を考察する上で重要な遺跡とされています。

歴史

古代

『日本書紀』には、天智天皇6年（667年）に高安城、屋島城とともに金田城が築城されたと記録されています。これは、白村江の戦い（663年）で倭軍が敗北したことを受け、大宰府の防衛を固めるために対馬、壱岐、筑紫などに防人や烽が設置された一環です。金田城は、対朝鮮半島への最前線として築かれました。

発掘調査の結果から、7世紀中頃に築城され、7世紀末に修築が行われ、8世紀初頭には廃城になったと推定されています。奈良時代にも対馬に防人が配置されていた記録がありますが、金田城には駐屯していなかったと考えられています。

中世

中世には、1441年と1453年に城山の木を伐採することを禁じた文書が見られます。この文書から、当時、平山氏が城山の番人として関わっていたことがわかります。

近世

近世には、金田城の所在が不明となり、対馬市厳原町の金田原とする説が有力でした。しかし、対馬藩の儒学者である陶山訥庵は、『津島紀略』で現在の城山説を唱えました。また、『津島紀略』には、天智天皇時代の山城とする説の他に、神功皇后の新羅征伐時に築かれたとする説も紹介されています。

江戸時代後期になると、外国船の出現に対応するため、対馬藩は沿海地図を作成し、遠見番所を設置しました。1798年には『海辺御備覚』が作成され、金田城の修築が行われたとされています。

近代以降

近代以降、金田城は以下のように変遷しました。

1901年：明治政府が城山に砲台を築き、金田城の遺構を一部破壊。
1922年：後藤守一が調査。
1948年：東亜考古学会が調査し、金田城の位置が確定。
1962年：長崎県指定史跡に指定。
1982年：国の特別史跡に指定。
1985年以降：発掘調査と史跡整備が開始。
2017年：続日本100名城に選定。

遺構

金田城は、城山の地形を最大限に利用して築かれています。城山の三方は海に囲まれ、南西側も急峻な地形です。山上からは朝鮮半島を望むことができ、防御と監視に適した立地です。城は東斜面に築かれ、谷を囲むように石塁が構築された「包谷式山城」となっています。

城壁

城壁は、総延長約2.8キロメートルに及ぶ石塁で構成されています。石塁は、低いところで2～3メートル、高いところで4～5メートル、谷部では6メートルに達します。一部に土塁も確認されています。

一ノ城戸の北部や南東部、城域南端では、石塁の張り出しが確認されています。これは、朝鮮半島で「雉」または「雉城」と呼ばれる防御技術で、鬼ノ城（岡山県）の角楼にも見られます。

城門・水門

城壁には、3ヶ所の城門（二ノ城戸、三ノ城戸、南門）と2ヶ所の水門（一ノ城戸、三ノ城戸）が設けられています。

一ノ城戸: 北東部に位置する水門の遺構。高石垣で築かれています。
二ノ城戸: 東部に位置する城門の遺構。門礎石が残っています。
三ノ城戸: 南東部に位置する城門と水門の遺構。巨岩を使った石垣で構築されています。
南門: 南部に位置する城門の遺構。掘立柱建物跡も発見されており、詰所や見張り所の可能性が指摘されています。

ビングシ山鞍部

城山の東側にはビングシ山があり、その鞍部は城の中心的な機能を持っていたと考えられています。発掘調査では、門（ビングシ門）、土塁、掘立柱建物跡が確認されています。

その他

城山山頂は「火立隈」とも呼ばれ、烽が設置されていた可能性が指摘されています。

また、一ノ城戸付近には、金田城の鎮守として祀られたとされる大吉戸神社が鎮座しています。

出土品

城域からは、須恵器、土師器、鍛冶関連の遺物、温石などが出土しています。これらの出土品から、金田城は7世紀中頃に築かれ、7世紀末に修築されたと考えられています。

大吉戸神社には、城山から出土したとされる弥生時代の広形銅矛7本が伝わっています。

文化財

国の特別史跡: 金田城跡（1982年指定）
長崎県指定有形文化財: 大吉戸神社の広鋒青銅矛7本（1973年指定）

現地情報

所在地: 長崎県対馬市美津島町黒瀬
交通アクセス: 対馬空港から車で約20分、登山口から徒歩約40分

周辺施設

長崎県立対馬歴史民俗資料館
城山砲台
城山付属堡塁

金田城は、古代日本の防衛体制を理解する上で非常に重要な史跡です。その歴史と遺構は、古代の国際関係や軍事技術を学ぶ上で貴重な情報を提供してくれます。

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