長禄の変

長禄の変：室町時代の闇に消えた南朝皇胤と神璽争奪戦

長禄の変は、室町時代の長禄元年（1457年）に勃発した後南朝を巡る動乱です。嘉吉の乱で没落した赤松氏の遺臣たちが、後南朝の皇胤である自天王と忠義王を討ち、奪われた神璽を取り返そうとしました。この事件は、室町幕府、赤松氏遺臣、そして後南朝という三者の思惑が複雑に絡み合い、歴史の深淵に沈んでいます。

事件の背景：奪われた神璽と赤松家再興の野望

三種の神器の一つである神璽は、禁闕の変によって後南朝勢力に持ち去られたままでした。赤松氏遺臣たちは、神璽奪還を悲願とし、幕府に赤松家再興を認めさせる切り札にしようと目論みます。彼らは後花園天皇の綸旨と足利義政の御内書を得て、神璽奪還後の赤松家家督相続を確約させました。

決行：雪の吉野、二手に分かれた襲撃

長禄元年12月2日、大雪の中、赤松遺臣たちは自天王のいる吉野奥北山と忠義王のいる河野郷へ二手に分かれて襲撃を敢行しました。河野郷へ向かった上月満吉は忠義王を討ち取るという中心的な役割を果たし、北山へ向かった丹生屋帯刀左衛門らは自天王を討ち、神璽奪還に成功します。しかし、吉野の郷民らの追撃を受け、遺臣たちは神璽を奪い返されてしまうのです。

再度の奪還：小寺藤兵衛入道の暗躍

長禄2年（1458年）3月、赤松側は小寺藤兵衛入道という人物を中心に、大和国の国人である越智家栄らの協力を得て、再び神璽奪還作戦を実行します。詳細な経緯は不明な点が多いものの、興福寺別当・経覚の日記『経覚私要鈔』には、小川弘光という人物が事件に関与していたことが記されています。

神璽返還と赤松家再興

最終的に、神璽は京へと返還され、室町幕府は赤松氏の功績を認め、赤松政則に家督を相続させます。赤松氏は加賀北半国の守護職、備前国新田荘、伊勢高宮保を与えられ、見事再興を果たしました。

細川勝元の政治的思惑

赤松氏再興には、細川勝元が深く関与していました。細川氏は、赤松氏を取り立てることで、当時勢力を拡大していた山名宗全に対抗しようとしたのです。長禄の変は、室町幕府内の権力闘争の一環でもあったと言えるでしょう。

長禄の変は、赤松氏遺臣たちの悲願、室町幕府の思惑、そして後南朝の抵抗が複雑に絡み合った事件です。この事件を通して、室町時代の政治情勢や社会構造を垣間見ることができます。

参考文献
森茂暁『闇の歴史、後南朝：後醍醐流の抵抗と終焉』角川書店、1997年
渡邊大門『奪われた「三種の神器」：皇位継承の中世史』講談社、2009年
渡邊大門『戦国期赤松氏の研究』岩田書店、2010年
渡邊大門『中世後期の赤松氏：政治・史料・文化の視点から』日本史史料研究会、2011年
* 渡邊大門『赤松氏五代：弓矢取って無双の勇士あり』ミネルヴァ書房、2012年

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