防人

防人：古代日本の国境を守る者たち

防人（さきもり/ぼうじん）とは、古代中国や日本の飛鳥時代から平安時代にかけて存在した、国境警備を担う兵士のことです。律令制下の軍事制度として確立され、当時の社会構造や軍事力、そして人々の生活を知る上で重要な存在でした。本稿では、中国と日本の防人制度について、その歴史、規模、役割、そして現代社会における防人のイメージまでを詳しく解説します。

中国における防人制度

738年完成の『大唐六典』には、「辺地の防衛のために防人を置く」と記されており、その数は担当地域の規模によって異なりました。大規模な拠点には500人、中規模な拠点には300人、小規模な拠点には300人以下が配置され、警備の規模に応じて人員が調整されていました。唐代初期には全国で数万人にものぼる防人が配置され、国境の警備を担っていました。兵士の選抜は農村からの徴兵が中心でしたが、犯罪者や無宿者なども含まれていました。任期は原則3年でしたが、延長されることも多く、食料や武器は自弁でした。開元、天宝年間（713年-756年）になると、募集された職業軍人が中心となりました。

日本における防人制度

日本の防人制度は、646年（大化2年）の大化の改新で確立されました。白村江の戦いでの敗戦を機に、唐からの侵略に備えるため、九州沿岸の防衛を強化する目的で設置されました。「さきもり」という呼称は、古くから存在した岬や島を守る「岬守」「島守」などに由来し、唐の「防人」という漢字を当てたものと考えられています。

大宝律令（701年）と養老律令（757年）において、防人制度は正式に規定されました。京の警護は衛士、辺境防備は防人が担当する明確な役割分担が定められていました。任期は3年で、諸国から徴兵されました。任期の延長も多く、食料や武器は自弁という厳しい条件でした。大宰府が指揮を取り、壱岐、対馬、筑紫の諸国に配備されました。出土した木簡などから、肥前国にも配置されていた可能性も示唆されています。

当初は遠江以東の東国から徴兵され、税の免除もなかったため、農民にとって大きな負担でした。防人の士気は低く、九州への移動中や帰郷時には多くの犠牲者が出たと言われています。考古学的調査からも、甲斐国（山梨県）や相模国（神奈川県）出身の防人の存在が確認されています。

757年以降は九州からの徴用となり、792年の健児の制成立後も、朝廷は国土防衛のために防人制度を維持しました。新羅の海賊の襲来が頻発した時代には、人員の増強や弩の復活など、防備の強化策が講じられました。院政期に入ると、北面武士など新たな軍事制度が確立し、防人の規模は縮小され、10世紀には事実上廃止されました。1019年の刀伊の入寇では、大宰権帥藤原隆家が率いる九州の武士が防衛の中心となりました。

防人の規模

東国から徴兵された時期の防人の規模は、約2000人と推定されています。当時の国税帳などの記録から、各国の負担人数が推計可能で、その合計は2000人を超えます。

防人歌

『万葉集』には、防人やその家族が詠んだ歌が100首以上収められており、「防人歌」と呼ばれています。東国の言葉が多く使われており、当時の生活や心情を知る上で貴重な資料となっています。

現代における防人

現代では、常に危険と隣り合わせで地域社会の安全を守る自衛官、警察官、消防官、海上保安官などを比喩的に「防人」と呼ぶことがあります。これは、古代の防人が国境を守る役割を担っていたことに由来しています。

まとめ

防人制度は、古代中国と日本の国境警備を支えた重要な軍事制度でした。厳しい条件下で任務に就いた防人の存在は、当時の社会構造や人々の生活、そして国家防衛のあり方を理解する上で、欠かせない要素となっています。様々な文献や考古学的発見を通じて、その実態が明らかになりつつあり、今後も新たな研究成果が期待されます。

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