頓阿

頓阿（とんあ/とんな）は、鎌倉時代後期から南北朝時代にかけて生きた僧侶であり、卓越した歌人としても知られています。生年は正応2年（1289年）で、文中元年/応安5年3月13日（1372年4月17日）にその生涯を閉じました。彼の家系については諸説ありますが、二階堂氏一族の二階堂光貞を父とする説が有力です。また、藤原師実の子孫であるという説も存在します。俗名は二階堂貞宗といい、この名は父・光貞、あるいは当時の執権であった北条貞時の名から「貞」の字を、そして祖父・二階堂宗実の名から「宗」の字を取ったものと考えられています。彼には、同じく僧侶であり歌人である経賢という息子がいました。

頓阿の足跡

頓阿は若い頃、比叡山に篭り天台教学を学びました。その後、高野山でも修行を積んでいます。20歳代後半には、金蓮寺の真観に師事して時衆となりました。彼は西行の足跡を慕い、全国を行脚しました。京都東山にある双林寺の西行の旧跡には草庵を構え、隠遁生活を送りました。歌人としては、二条為世に師事し、その才能を開花させました。二条派の歌道の再興者として知られ、20歳代で慶運・浄弁・兼好とともに「和歌四天王」の一人と称されるほどの力量を持っていました。彼は地下（じげ）の歌人であり、歌壇での活躍は比較的晩年になってからでした。

新拾遺和歌集の完成

頓阿は、勅撰和歌集「新拾遺和歌集」の撰者としてもその名を歴史に刻んでいます。当初、撰者は二条為明（為世の次男・為藤の子）でしたが、選集の途中で亡くなったため、頓阿がその後を引き継いで完成させました。この時、彼は76歳という高齢でした。また、北朝の実力者であった二条良基（二条派とは別系統の五摂家、二条家の当主）の庇護を受けました。

歌人としての評価と著作

頓阿の和歌は、『続千載集』以下の勅撰和歌集に計44首が収録されています。その独自の歌風は、多くの人々に影響を与えました。また、彼は著述家としても活動しており、『井蛙抄』や『愚問賢註』などの著作を残しています。


頓阿は、僧侶、歌人、そして撰者として多岐にわたる分野で活躍した人物であり、その足跡は今日まで多くの人々に語り継がれています。彼の人生は、鎌倉時代後期から南北朝時代という激動の時代を背景に、隠遁生活と歌道への情熱、そして晩年の大事業への取り組みといった、多様な側面から構成されています。頓阿の生涯は、当時の文化や社会、そして個人の生き方について深く考えさせられる、貴重な歴史的資料と言えるでしょう。

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