(52768) 1998 OR2

概要

(52768) 1998 OR2は、太陽系内を巡る数多くの小惑星の一つであり、特に地球に近い軌道をとる「アモール群」に分類される天体です。この小惑星は、現在知られている中でも見かけの明るさが際立っており、比較的大型であることから注目を集めています。地球軌道に接近する特性から「潜在的に危険な小惑星（PHA）」にも指定されており、その物理的な特徴や将来的な軌道が詳細に観測され続けています。

発見とその後の観測

この天体は、1998年にハワイのマウイ島にあるハレアカラ天文台において、「地球近傍小惑星追跡プログラム（NEAT）」の観測チームによって発見されました。発見後の調査により、過去の観測記録の中にも存在していたことが判明しています。具体的には、1987年にオーストラリアのサイディング・スプリング天文台で2回、そして1996年にはアメリカのアリゾナ州にあるスチュワード天文台で3回の観測データが残されていました。

物理的特性

1998 OR2の大きさについては、いくつかの推定値が存在します。天体の絶対等級を15.8等とし、一般的な小惑星の表面反射率（アルベド）0.20を仮定して計算された直径は約2.06キロメートルです。一方、アメリカ航空宇宙局（NASA）による推定では、より広い範囲として約1.8キロメートルから4キロメートルの間とされています。
スペクトル分類に関しても、異なる観測結果があります。小惑星のデータ集積であるLightcurve Database (LCDB)では、S型（岩石質小惑星）である可能性が仮定されていますが、2014年にCristina A. Thomasらが発表した観測結果では、L型と呼ばれる比較的珍しいタイプに分類される可能性が示されています。
特に興味深い発見は、2020年4月にプエルトリコのアレシボ天文台で行われたレーダー観測によって得られました。この高解像度観測により、1998 OR2の形状は単なる球形ではなく、表面に大きな凹みが存在し、さらに丘や尾根のような起伏のある地形が確認されました。この観測では、小惑星が約4.1時間という比較的短い周期で自転していることも同時に明らかになりました。

軌道の特性と分類

1998 OR2は、太陽の周りを約3.68年かけて公転しています。その軌道はかなり歪んだ楕円形（軌道離心率約0.573）であり、平均的な太陽からの距離を示す軌道長半径は約2.384天文単位（約3億5700万キロメートル）ですが、太陽に最も近づく時点（近日点）では、地球の軌道に近い位置まで接近します。このような軌道を持つことから、地球のすぐ近くを通過する「地球近傍天体（NEO）」の一つに位置づけられています。
さらに、地球軌道との最小交差距離（Earth MOID）が約0.015天文単位（約224万キロメートル）と非常に小さいことから、将来的に地球に衝突する可能性がある天体として、「潜在的に危険な小惑星（PHA）」にも分類されています。ただし、これはあくまで軌道計算上の分類であり、近い将来に必ず衝突するという意味ではありません。

地球への接近予測

1998 OR2は、その軌道特性のため、周期的に地球の近くを通過します。軌道計算によれば、20世紀から22世紀にかけての期間中に、地球から0.5天文単位（約7500万キロメートル）よりも近い距離に、合計19回接近することが予測されています。
近年、最も注目された接近は、2020年 4月29日に発生しました。この時、協定世界時午前9時56分頃に、地球から約0.042天文単位（約629万キロメートル）まで接近しました。この距離は、地球から月までの平均距離の約16.4倍に相当します。
さらに将来の接近予測では、22世紀中において最も地球に近づくとされるのが、2079年 4月16日です。この日の協定世界時午後1時31分頃には、地球から約0.012天文単位（約177万キロメートル）まで接近すると計算されており、これは現在のEarth MOIDよりも近い距離です。月までの距離に換算すると、約4.6倍という近さになります。興味深いことに、この2079年の地球最接近のわずか約67分後には、月に対しても約0.009天文単位（約138万キロメートル）まで接近すると予測されています。

メディア報道と科学的評価

2020年4月の地球接近に際し、1998 OR2が数キロメートル級の大きさを持つ大型小惑星であることから、一部のタブロイド紙や技術系ウェブサイト（例：イギリスのデイリー・エクスプレス、アメリカのビジネスインサイダーなど）が、もし衝突すれば大規模な気候変動を引き起こす可能性があるとして、センセーショナルに報道しました。
しかし、アメリカ航空宇宙局（NASA）は、2020年の接近において1998 OR2が地球に衝突する危険性は一切ないことを明確に否定しました。地球衝突の危険度を示す国際的な基準である「トリノスケール」においても、この接近に対しては何ら評価が行われていません。このため、一部メディアで拡散されたような「地球への脅威」といった内容は、科学的根拠に欠け、不必要な不安を煽るものであったとして、不条理であると指摘する声が多く聞かれました。

名称について

(52768) 1998 OR2という名称は、発見時に与えられた仮符号であり、2020年3月時点の情報では、この小惑星に対して正式な固有名がまだ命名されていない状態です。小惑星の固有名は、軌道が確定し、十分な観測データが蓄積された後に、国際天文学連合によって命名されるのが一般的です。

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