うしかい座カッパ星

うしかい座κ星（うしかいざカッパせい、κ Boötis、略称κ Boo）は、夜空で輝くうしかい座に位置する興味深い多重星系です。地球からの距離はおよそ158光年と推定されており、見かけ上はκ1星とκ2星という二つの星が比較的近くに見える二重星として観測されます。これら二つの星は約14秒角ほど離れており、比較的小さな口径の望遠鏡でも分離して見ることができます。

名称とその由来

うしかい座κ星には、いくつかの伝統的な名称があります。フラムスティード名ではうしかい座17番星として知られ、ラテン語で「ロバの三番仔」を意味するアセルス・テルティウス（Asellus Tertius）という固有名称も付けられています。この名称は、「ロバの仔」を意味する固有名を持つうしかい座の他の恒星、すなわちθ星（アセルス・プリムス）とうしかい座ι星（アセルス・セクンドゥス）と関連しており、これら三つの星は古代の星図において、ある種の繋がりを持っていたことを示唆しています。さらに、うしかい座κ星は、うしかい座のθ星、ι星、そしてλ星と共に、アラビア語で「ハイエナの仔」を意味するAulād al Dhiʼbah（أولاد الضّباع）という古い星列の一部だったと考えられています。

中国の伝統的な星官体系においては、うしかい座κ星は、うしかい座ι星、うしかい座θ星とともに「天槍」（拼音: Tiān Qiāng）と呼ばれる星の並びを形成しています。この天槍の中で、うしかい座κ星は「天槍一」（拼音: Tiān Qiāng èr）すなわち天槍の1番星として位置づけられています。

星系の構造と特徴

うしかい座κ星は、見た目には二重星ですが、それぞれの構成星もまた複雑な性質を持っています。

うしかい座κ1星

二重星の一方であるうしかい座κ1星は、天文学者シュトルーベによって初めて記録されたと考えられています。この星は、望遠鏡で直接その成分星を分離して見ることはできませんが、実際には二つの恒星から成る分光連星であることが分かっています。これは、星から届く光のスペクトル中に現れる視線速度が時間とともに変化することから確認されました。この視線速度の変動を詳しく解析することで、連星系の軌道要素が推定されています。その結果、二つの恒星は非常に長い周期でお互いを公転しており、その周期は約1,791年、軌道離心率は0.53と見積もられています。

また、うしかい座κ1星系全体と、後述するうしかい座κ2星も、互いに重力によって結びついた連星系を形成していると考えられています。この二つを結ぶ大きな軌道の公転周期は、さらに長く、6,000年以上と推定されています。

うしかい座κ2星

もう一方の構成星であるうしかい座κ2星は、明るさがわずかに変化する変光星に分類されています。特に、たて座δ型変光星と呼ばれるタイプに属しており、これは恒星の内部構造の変化に伴う脈動によって明るさが変動する星です。κ2星の光度変化は小さく、V等級での変動幅は通常0.1等級未満ですが、約1.6時間という比較的短い周期で変光しています。具体的には、その明るさは視等級で4.50等から4.58等の間で変動することが観測されています。この星の内部で起こる脈動には、複数の振動パターンが存在しており、球対称ではない非動径方向への脈動も確認されています。

うしかい座κ星系は、見た目の美しさだけでなく、その複雑な構成や各恒星が示す独特の物理的特徴（分光連星、変光星）から、天文学者にとって興味深い研究対象となっています。アセルス・テルティウスという古くからの名称を持つこの星は、現代の観測技術によって、より詳細な姿を私たちに見せてくれています。

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