お国と五平

谷崎潤一郎戯曲『お国と五平』：愛憎の三角関係と復讐の物語

『お国と五平』は、谷崎潤一郎によって書かれた1幕の戯曲であり、同氏の作品の中でも最も多く上演されている名作です。西国の侍の妻であるお国は、夫を殺された復讐のため、従者である五平と共に旅を続けています。彼らの前に、虚無僧の姿をした男が現れます。その正体は、お国の元許嫁である友之丞でした。

物語の舞台は、野州那須野が原の松の根元。3年間、友之丞を探し求めて放浪してきたお国と五平は、尺八の音色を頼りに友之丞を発見します。しかし、友之丞は復讐しようとするお国と五平に抵抗しません。臆病で卑怯だと自らを卑下し、熊谷の宿で耳にしたお国と五平の秘密を暴露することで命乞いをします。彼の言葉に業を煮やした五平は、不意打ちで友之丞を殺害します。こうして、長年の因縁と邪魔された恋の復讐を果たしたお国と五平は、静かに読経を上げます。

この作品は、1人の女性をめぐる2人の男性の三角関係を軸に、「恋」と「悪」というテーマが複雑に絡み合う議論劇となっています。お国は復讐の対象である友之丞に惹かれながらも、彼の弱さと卑怯さに嫌悪感を抱き、五平と共に彼を殺害するという選択をします。この行為は、復讐という行為が必ずしも正義ではない、また愛憎が複雑に絡み合う人間の感情を鮮やかに描き出しています。

上演の歴史と多様なメディア展開

『お国と五平』は、1922年6月に雑誌『新小説』に掲載され、同年7月には谷崎潤一郎自身の演出で帝国劇場にて初演されました。その後、1930年には京都南座、1949年には大阪[[歌舞伎座]]などでも上演され、2009年には歌舞伎座さよなら公演の一環として、坂東三津五郎、中村勘太郎、中村扇雀ら豪華キャストによって上演されています。さらに、2016年にはマキノノゾミ演出による現代的な解釈の上演も行われました。

舞台劇以外にも、1952年には成瀬巳喜男監督、木暮実千代主演による映画化もされています。東宝製作、モノクロ作品として公開され、当時の日本の映画界を代表するスタッフ、キャストが集結した話題作となりました。また、1963年にはNHKの文芸劇場でテレビドラマ化もされています。このように『お国と五平』は、初演から現代まで、舞台、映画、テレビドラマと、様々なメディアを通じて上演・映像化され、高い人気を誇っています。

主要刊行物

『お国と五平』は、単行本としても数多くの版を重ねています。初版は1922年の春陽堂刊行の『お國と五平 他二篇』で、その後、改造社、国際女性社、角川文庫などから様々なアンソロジーに収録され、現在でも容易に入手可能な作品です。これらの刊行物を通して、谷崎潤一郎の作品世界に触れることができます。

参考文献

『お国と五平』に関する研究論文や書籍も多く存在します。笠原伸夫編『新潮日本文学アルバム7 谷崎潤一郎』、河出書房新社『文藝別冊 谷崎潤一郎――没後五十年、文学の奇蹟』など、谷崎潤一郎研究の主要な参考文献として挙げられる書籍も多数存在します。これらの文献を参照することで、『お国と五平』に対する理解をより深めることができるでしょう。

結論

『お国と五平』は、復讐、愛、憎しみといった複雑な人間の感情を繊細に描いた、谷崎潤一郎の代表的な戯曲です。数々の舞台上演、映画化、テレビドラマ化を経て、現代においても高い評価を受け続けている作品です。その魅力は、時代を超えて多くの人々を惹きつけ続けています。

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