お東騒動

お東騒動：真宗大谷派分裂の歴史的背景

お東騒動は、1969年に真宗大谷派が経験した深刻な宗派分裂事件です。この騒動は、単なる宗派内の対立に留まらず、近代社会における宗教のあり方、特に伝統的な権威と個人の自覚という二つの潮流の衝突という、普遍的な課題を浮き彫りにしました。

対立の根底：伝統的権威と個人の自覚

騒動の根底には、教団の体制を巡る二つの相反する動きがありました。

1. 伝統的権威への集中: 大谷家当主（法主）への権威と権限の集中です。明治時代以降、大谷家は法主、管長、本願寺住職の三つの地位を兼任し、強い宗教的権威と権限を持っていました。この背景には、明治政府への協力を急ぎ、本願寺の再建を成し遂げようとした、宗派側の意図がありました。大谷家は、本願寺の財産も私物化しているとの批判もありました。
2. 個人の自覚の重視: 一方で、清沢満之らの影響を受け、個々人の宗教的自覚を重視する近代的な教学思想が広がっていました。これは、従来の法主を中心とした権威主義的な体制に対する反発を生み、教団内部に改革を求める動きを強める要因となりました。

騒動の経緯

騒動は、1924年に法主となった大谷光暢（闡如）が、内局の承認を得ずに管長職を譲ると発表した「開申事件」を発端に、改革を求める動きが活発化しました。1960年代後半には、教団のあり方を巡る意見対立が激化し、改革派は「同朋公議」（教団運営は門徒の総意によるべき）と「宗本一体」（宗派と本願寺は一体であるべき）という二つの理念を掲げました。

1962年には、「同朋会運動」が発足し、信仰運動としての自覚を促しました。しかし、1978年に闡如が本願寺の独立を宣言したことで、事態はさらに深刻化しました。

改革の実施と宗派分裂

改革派は、「同朋公議」と「宗本一体」の理念に基づき、1981年に宗憲を改正。これにより、教団運営の権限は議会に移され、法主は象徴的な地位となりました。また、本願寺と真宗大谷派は合併し、一体化されました。これにより、東本願寺は「真宗本廟」と改称されました。

しかし、これらの改革に反対する保守派は、大谷光暢の長男である大谷光紹（興如）を中心に、1988年に「浄土真宗東本願寺派」を設立し、大谷派から分離独立しました。さらに、大谷光暢の次男、四男をそれぞれ支持する勢力も離脱し、真宗大谷派は分裂状態となりました。

その後の真宗大谷派

真宗大谷派は、闡如の後継者として、一時的に大谷光紹の息子である大谷光見が指名されたものの、東本願寺派に移籍したため、新門から外されました。その後、闡如の次男の息子である大谷業成が指名されましたが、未成年だったため、門首代行が置かれました。1996年に大谷業成が離脱した後、闡如の三男である大谷暢顯（淨如）が門首に就任しました。淨如には子息がいなかったため、長年新門は未決定でしたが、2020年に淨如の従兄弟にあたる大谷暢裕（修如）が門首を継承しました。

現在の4派

お東騒動の結果、真宗大谷派は現在、以下の4派に分かれています。

1. 真宗大谷派: 改革路線を歩む宗派。
2. 浄土真宗東本願寺派: 保守的な立場を維持する宗派。
3. 本願寺維持財団: 大谷光暢の次男大谷暢順が設立した財団を支持する勢力。
4. 大谷暢道支持勢力: 大谷光暢の四男を支持する勢力。

まとめ

お東騒動は、真宗大谷派が経験した深刻な宗派分裂事件であり、伝統的な権威と個人の自覚という近代社会における宗教のあり方を問うものでした。この騒動は、現代社会においても、組織における権力構造や改革の難しさを考える上で、重要な教訓を与えてくれます。


関連書籍

『東本願寺三十年紛争』田原由紀雄著（白馬社／2004年）
『東本願寺をめぐる争訟事例集』（全3巻）入江正信編（商事法務研究会／2003年）
『祖師に背いた教団－ドキュメント・東本願寺30年紛争－』田原由紀雄著（白馬社／1997年）
『貴族の死滅する日―東本願寺十年戦争の真相（増補新装版）』落合誓子著（晩聲社／1995年）
『東本願寺大谷光紹』泉龍路著（ハート出版／1988年）
『共産党対本願寺―乗っ取るまでの30年暗躍史』共産党から宗教を守る会編（タイムレビュー社／1980年）
『東本願寺の変―10年紛争を解く』上之郷利昭著（サイマル出版会／1979年）

外部リンク
真宗大谷派
浄土真宗東本願寺派本山東本願寺
本願寺大谷web
一般財団法人本願寺文化興隆財団
本願寺（京都市右京区）)

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