こきりこ節

概要

こきりこ節は、富山県南砺市、特に五箇山地方に古くから伝わる民謡です。麦屋節と並び、この地域を代表する、日本でもっとも古い民謡の一つとされ、その起源は飛鳥時代に遡るとも言われています。江戸時代に記された『越の下草』や『奇談北国巡杖記』といった古文献にもその存在が記録されており、現存する民謡としては非常に長い歴史を持つことがうかがえます。

この歌は、地域の白山宮の祭礼で歌い継がれ、五穀豊穣への感謝と豊かな実りを願う、大らかで素朴な歌として親しまれてきました。かつて「陸の孤島」と呼ばれ外界と隔絶されていた五箇山も、大正末期から昭和初期にかけての電源開発により人々の交流が始まると、地域固有の文化であるこきりこ節も一時は存続の危機に瀕しました。しかし、昭和初期に郷土民謡研究家の高桑敬親氏が五箇山民謡の採集を進める中で、上梨地区の山崎しい氏という高齢の女性から歌を採譜・記録したことにより、この貴重な古謡は途絶えることなく現代に伝えられました。山崎しい氏は幼い頃に『コッケラコ』という歌を老人から習ったと伝え、その老人は2本のキセルを指で回して打ち鳴らしながら歌っていたと語っています。この打楽器の原型は、現在の『こきりこ』の竹を思わせます。

1953年（昭和28年）には、改正前の文化財保護法に基づき、文化財保護委員会（現 文化庁）によって「助成の措置を講ずべき無形文化財」に選定されました。さらに、1973年（昭和48年）11月5日には「五箇山の唄と踊」の一部として、国の選択無形民俗文化財に選択されています。現在も複数の保存伝承団体が活動しており、「越中五箇山民謡民舞保存団体連合会」を結成し、協力して保存・育成に努めています。

全国的に広く知られるようになったきっかけの一つは、1969年（昭和44年）に文部省（現在の文部科学省）により中学校の音楽教材として採用されたことです。また、1973年（昭和48年）12月にはNHKの『みんなのうた』で紹介され、1975年（昭和50年）のイギリス女王エリザベス2世の来日時には、宮中晩餐会で日本の伝統的な古謡としてBGMに使用されるなど、国際的な場でも紹介されています。

五箇山地方だけでなく、利賀地方では「こっきりこ節」、南砺市城端地区でも麦屋節と共に伝承されています。

楽器と衣装

こきりこ節の演奏（地方）では、日本の伝統芸能である田楽に用いられる楽器が特徴的に使われます。

地方（じかた）: 男性は折烏帽子をかぶり直垂（ひたたれ）姿、女性は立烏帽子をかぶり水干（すいかん）と朱袴の白拍子（しらびょうし）姿で演奏します。
こきりこ（筑子・小切り子）: 放下（ほうか）師が大道芸に使用した竹に由来します。長さ七寸五分（およそ23cm）に切った煤竹（すす竹）2本を指で回して打ち鳴らします。「こきりこの竹は七寸五分じゃ 長いは袖のかなかい（引っ掛かるの意）じゃ」という歌詞にもあるように、着物の袖に引っかからない最適な長さとされています。
棒ざさら・摺りざさら: 細かく裂いた竹の束と、のこぎりの歯のように溝をつけた木の棒にこすり合わせて音を出す田楽楽器です。
鍬金（くわがね）: 田楽で使われるもので、農具である鍬の鉄部分を外し、紐で吊り下げて打ち鳴らします。
篠笛、小鼓、平太鼓: これらの楽器も演奏に用いられます。

踊り手:
びんざさら（板ざさら）: 短冊形の薄い木の板108枚を紐で連ねた楽器。両端を持ち、手首のスナップを使って板を打ち合わせて音を出します。板が108枚なのは、人間の百八の煩悩を払い清めるという意味が込められています。土産物としても販売されています。

踊り

こきりこ節には主に以下の3種類の踊りがあります。

ささら踊り: びんざさらを手にして踊る、力強く勇壮な男踊りとして最も知られています。山鳥の羽をつけた綾藺笠（あやいがさ）をかぶり、直垂姿で行われます。
しで（紙垂）竹踊り: 手にこきりこ竹に紙垂（しで）をつけた「しで竹」を持ち、神前へ奉納する意味合いを持つ女踊りです。石帯（せきたい）で結んだかつら紐を頭につけ、麻小袖姿で行われます。
手踊り: 特定の道具を持たずに踊るスタイルで、衣装は麻小袖です。総踊りの際には男女問わず多くの人々によって踊られます。

伝承活動

こきりこ節は、南砺市内の五箇山地方や城端地区で複数の保存団体によって伝承されています。

越中五箇山筑子（こきりこ）唄保存会、越中五箇山民謡保存会、利賀むぎや節保存会、越中五箇山麦屋節保存会など これらの団体は「越中五箇山民謡民舞保存団体連合会」を結成し、相互に協力しながら民謡・民舞の保存と育成に取り組んでいます。地元の小中学校や高校でも積極的に指導が行われており、特に富山県立南砺平高等学校の郷土芸能部は、全国高等学校総合文化祭で優れた成績を収めるなど、若い世代への伝承に大きな成果を上げています。
五箇山民謡清流会
越中城端麦屋節保存会新声会 （城端地区）

こきりこ祭り

毎年9月25日と26日の2日間にわたり、南砺市上梨地区にある白山宮（国の重要文化財）の秋季祭礼に合わせて「こきりこ祭り」が開催されます。白山宮の舞殿では、神楽舞やこきりこ節、獅子舞が神前へ奉納されます。夜の舞台競演では、地元の保存団体や富山県立南砺平高等学校郷土芸能部などがこきりこ節や麦屋節をはじめとする五箇山民謡を披露するほか、富山県民謡おわら保存会による越中おわら節の友情出演もあります。日中には素人のど自慢コンクールやこきりこ踊りの講習会なども行われ、舞台競演後には観光客も加わっての総踊りが行われ、祭り全体を盛り上げます。この祭りは2006年（平成18年）に「とやまの文化財百選（とやまの祭り百選部門）」に選定されています。なお、この祭りに先立ち、9月23日からは下梨地区で「五箇山麦屋まつり」が開催されます。

みんなのうたでの紹介

こきりこ節は、NHKの子供向け音楽番組『みんなのうた』でも紹介されています。最初は1973年12月から「コキリコの歌」というタイトルで放送され、その後1981年12月からは「こきりこの歌」と改題・リメイクされたバージョンが放送されました。これらのバージョンは後に再放送やDVD化もされています。

その他の関連情報

ザ・フォーク・クルセダーズ: アルバム『ハレンチ』に「コキリコの唄」として収録されました。
富山GRNサンダーバーズ: 野球チームの応援歌（チャンステーマ）として使用されています。
富山駅発車メロディ: 1989年から2000年頃まで、発車メロディとしてピアノアレンジバージョンが使用されていましたが、利用者からは「暗い」と不評だったため変更されました。
姫神: アルバム『青い花』に収録されています。
けいおん!: テレビアニメ第2期の劇中で歌われました。
* 寺田創一、NeoBallad、民謡ガールズ: これらのアーティストもレパートリーとして取り上げています。

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