それ行けカープ 〜若き鯉たち〜

それ行けカープ 〜若き鯉たち〜

『それ行けカープ 〜若き鯉たち〜』は、プロ野球・日本野球機構（NPB）のセントラル・リーグに所属する広島東洋カープの公式球団歌および応援歌である。

楽曲の誕生

この楽曲は、1975年（昭和50年）に発表され、同年8月にシングルレコードとしてCBSソニー（現在のソニー・ミュージックエンタテインメント）からリリースされた。楽曲が誕生した背景には、当時のカープの状況が深く関わっている。前年まで3年連続最下位と低迷にあえいでいたチームは、この年、新たな風を吹き込むべく、打撃コーチとして前年来日していたジョー・ルーツを新監督に迎えていた。ルーツ監督のもとでチーム改革が進められる中、その意気込みと、低迷期にあってもカープを熱心に応援し続けるファンの情熱を形にしようと企画されたのが本楽曲である。

作詞を手掛けたのは有馬三恵子、作曲は宮崎尚志。両氏は雑誌編集者の佐々木久子氏が主宰する「カープを優勝させる会」のメンバーであり、カープの優勝への強い願いを込めてこの曲を生み出した。これにより、1953年から20年以上にわたり親しまれた2代目球団歌『広島カープの歌』に代わる、3代目の新たな球団歌が誕生したのである。オリジナルシングルレコードで歌声を披露したのは、かつてフォークグループ「ジローズ」に在籍し、NHKの音楽番組「ステージ101」に出演する「ヤング101」のメンバーとしても人気を博した塩見大治郎氏である。塩見氏は当時、中国放送のラジオ番組でも活動していた。

歴史的な躍進と楽曲の浸透

ルーツ監督はセ・リーグ開幕からわずか15試合でチームを去ることとなったが、ヘッドコーチから昇格した古葉竹識氏が後任として指揮を執り、チームは勢いを維持した。そして、この1975年、カープは球団創設25年目にして、待ち望んだセントラル・リーグ初優勝を成し遂げたのである。この快挙と、チームカラーである赤を基調としたユニフォームで旋風を巻き起こした「赤ヘル旋風」が相まって、本楽曲もまた広島県内だけでなく、日本中にその名を知られるようになった。

その人気は記録的な売上にも表れた。オリジナル盤のレコードは、中国地方だけで30万枚、全国では100万枚以上を売り上げたと言われている。特に広島においては、同年発売され大ヒットした「およげ!たいやきくん」を凌ぐ勢いだったとも伝えられており、地元での絶大な支持を集めた。

スタジアムでの活用と多様な展開

現在も『それ行けカープ 〜若き鯉たち〜』は、広島東洋カープの本拠地であるMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島で行われる主催試合において、重要な場面で演奏されている。具体的には、試合開始前のフルコーラス演奏、7回裏のカープ攻撃前にジェット風船を飛ばす際の1コーラス演奏（いわゆるラッキー7）、イニング間のインターバルでの演奏、そしてカープが勝利した際のヒーローインタビュー後に1コーラス演奏されるなど、球場の雰囲気作りに欠かせない楽曲となっている。

また、2014年からは、カープファンを公言する著名人が歌唱するリレー映像が制作されている。この映像は、試合開始前や7回裏攻撃前に球場で放映されるほか、広島カープの公式YouTubeチャンネルでも公開されており、幅広い層に楽曲が届けられている。毎年、多岐にわたる分野の著名人が参加し、カープファン同士の繋がりや応援の輪を広げる役割も果たしている。

その他、2017年からは、JR山陽本線の由宇駅（カープ二軍本拠地である由宇球場の最寄り駅）において、列車の接近メロディとしても使用されている。過去には、日本テレビ系列の「ズームイン!!朝!」やニッポン放送、文化放送のプロ野球中継で、カープ関連の情報や勝利時にBGMとして流されたこともあった。

音源化の歴史

1975年に発売された塩見大治郎氏歌唱のオリジナル音源は、その後様々な形で再発売されてきた。1991年にはオリジナルカラオケを追加したシングルCDとして発売されたが、数年後に廃盤となり、一時期は中古市場で高値で取引される状態となった。しかし、2009年のマツダスタジアム誕生を機に、ファンからの再発売要望が多数寄せられ、これに応える形で同年7月、アルバムCD『VICTORY CARP』にオリジナル音源を含む複数のカープ応援歌と共に収録され、久々に公式に再発売された。このアルバム収録曲は、主要音楽配信サイトでのダウンロード販売も行われている。

オリジナル版以外にも、様々な歌唱者によるバージョンが存在する。1999年以降、演歌歌手の南一誠氏によるバージョンがコロムビアミュージックエンタテインメントから発売されており、こちらもダウンロード入手が可能である。また、2009年にはマツダスタジアムでの使用音源に合わせて、塙一郎氏編曲によるシンセサイザーを用いた打ち込みバージョンがビクターエンタテインメントからリリースされたアルバム『それ行けカープ〜広島東洋カープ Stadium Sound Track』に収録された。このバージョンでは、広島の民放4局のアナウンサーによるユニット「鯉してるオールキャスターズ」やMarquee Marblish BANDが歌唱したバージョンも制作されている。さらに、1980年には角川博氏の歌唱バージョンがシングルレコードのカップリング曲として発表された歴史もある。

楽曲にまつわるエピソード

本楽曲には、いくつかの興味深いエピソードが伝えられている。作曲者の宮崎尚志氏は、作曲当時カープの主力選手だった山本浩二氏を鼓舞したいという思いから、山本氏の母校である法政大学の応援歌を参考にし、楽曲の最後のフレーズをイントロにも用いたという。宮崎氏は野球には全く詳しくなく、広島県出身でもなかったが、樽募金によって球団を存続させたカープの生い立ちに感銘を受け、ファンの情熱を曲に投影しようと試みた。初恋の相手が広島出身だったという裏話もある。宮崎氏は後に、山本浩二氏が守備中にこの曲を口ずさんでいたと聞き、また、当時読売ジャイアンツの監督だった長嶋茂雄氏が、この歌を聞くと戦意を喪失すると語っていたことを明かしている。宮崎氏自身も晩年は熱心なカープファンとなり、シーズン終盤には「お〜い、カープぅ〜、頑張ってくれよぉ〜、また優勝してくんねぇかなぁ〜」が口癖だったという。

楽曲完成時、低音の美声を持つ古葉監督も歌唱候補に挙がっていたという。有馬三恵子氏からの打診に対し、古葉氏は一度は受け入れたものの、家族から「ファンの皆さんに歌い継がれていく歌だから」との助言を受け、歌唱を辞退したと伝えられている。

また、歌詞については、2番の「闘志をつくし」というフレーズが、当初は「人事をつくし」であったことが知られている。歌詞の手直しはこの一箇所のみだったという。

2008年に広島交響楽団とカープが開催した演奏会で、本楽曲を基にした交響曲を作曲した宮崎尚志氏の次男である宮崎道氏は、父のメロディーについて、原爆ドームの真向かいにあった旧広島市民球場で流れることを念頭に、原爆で亡くなった人々への鎮魂歌として、またスタンドのファンが一体となって歌える賛美歌のようなイメージで作曲したのではないかと推察している。

メディアでの使用例としては、広島県出身のカープファン少年が主人公のアニメ「涼風」（2005年放送）のサウンドトラックに、主人公歌唱による本楽曲が収録されたことがある（ただし4番の歌詞は省略）。さらに、2019年放送のテレビドラマ「恋より好きじゃ、ダメですか？」のエンディングテーマとしても使用され、出演者の高田夏帆氏のシングルCDにも収録された。

初代球団歌は1950年制定の『我れらのカープ』であったが、短期間で廃止されている。

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