りゅう座ニュー星

りゅう座ν星

りゅう座ν星は、夜空で比較的容易に見つけられる星座、りゅう座に位置する連星系です。この星系は、ν1星とν2星と呼ばれる二つの恒星から構成されており、小型望遠鏡を用いると、その美しい姿を分離して観測することができます。特筆すべきは、二つの恒星の色と明るさが非常によく似ている点で、二重星観測の入門としてしばしば紹介される対象です。このν星系は、見かけ上近くにあるだけの重星ではなく、実際に重力によって結びついた真の連星であることがわかっています。さらに、ν2星は、より精密な観測によって自身もまた連星であることが明らかになっています。

名称

古くから様々な文化圏で親しまれてきたりゅう座ν星は、いくつかの名称で知られています。アラビア語では、りゅう座のβ星（ラスタバン）、γ星（エルタニン）、μ星（アルラキス）、ξ星（グルミウム）と共に、「母ラクダ」を意味するアル・アワーイド（Al ʽAwāïd）の一部とされ、後にラテン語でキンクェ・ドロメダリイ（Quinque Dromedarii）、すなわち「五頭のラクダ」とも呼ばれました。

また、現在ではクーマ（Kuma）という固有名が用いられることもありますが、この名称はチェコの天文学者アントニーン・ベチュヴァーシュの星図を通じて広く知られるようになったものの、その正確な由来は未だ不明とされています。

中国の伝統的な天文学においては、りゅう座ν星は天棓（てんぼう、Tiān Bàng）と呼ばれる星官、すなわち星座の一部を成しています。天棓は「天上の唐棹」を象徴し、りゅう座のξ星、β星、γ星、そしてヘルクレス座のι星と共にこの星官を形成します。りゅう座ν星自身は、天棓の2番目の星として天棓二（てんぼうじ、Tiān Bàng èr）と呼ばれています。

星系

りゅう座ν星を構成するν1星とν2星は、約62秒角という比較的広い角距離を置いて夜空に並んでいます。地上の観測点からは、この二つの星の位置関係は長い年月を経てもほとんど変化しないことが確認されており、これが両星が単なる見かけの重星ではなく、共通の固有運動を持つ物理的な連星系であることを強く示唆しています。年周視差の測定に基づくと、この星系は地球からおよそ99光年の距離に位置すると推定されています。この距離に約62秒角という見かけの離角を当てはめると、実際の空間における二つの星間の距離は約1,900AU（天文単位）にも達すると計算されます。これほど大きな距離を隔てているため、ν1星とν2星がお互いの周りを公転する周期は非常に長く、5万年以上かかると見込まれています。

一方、ν2星については、より詳細な研究が進んでいます。1961年には、その視線速度の周期的な変動から、ν2星自身がさらに別の伴星を持つ分光連星であることが発見されました。この分光連星系の軌道要素は、その後の継続的な観測によって高い精度で求められています。分光連星を構成する二つの星は、互いにほぼ円軌道を描いており、その公転周期は約38日と比較的短いことが判明しています。この周期から推定される連星間の平均距離は、およそ520万km（0.035AU）となります。

ν1星とν2星は、スペクトル分類でA型星に属しており、いずれも太陽よりも大きな質量を持っています。二つを比較すると、ν2星の方がわずかに質量が大きく、見かけの明るさも上回っています。さらに、ν2星は、A型金属線星（Am星）と呼ばれる特異なタイプの恒星であることが知られています。Am星は、その大気スペクトル中に特定の金属元素の吸収線が異常に強く現れる特徴を持ちますが、ν2星もこの特性を示しています。

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