アイマン・ザワーヒリー

アイマン・ムハンマド・ラビーウ・アッ＝ザワーヒリー

アイマン・ムハンマド・ラビーウ・アッ＝ザワーヒリー（Ayman al-Zawahiri, 1951年6月19日 - 2022年7月31日）は、エジプト出身の医師であり、後にイスラム過激派の指導者となった人物です。2011年から2022年にかけて、国際的なテロ組織アルカーイダの指導者を務めました。ウサーマ・ビン・ラーディンの後継者として、世界各地でのテロ活動を指揮しました。

生い立ちと教育

1951年、カイロ郊外のマアディで、中流家庭に生まれました。父親は大学教授で、医学系の家系でした。母親も政治的に有力な一族の出身でした。祖父はアズハル大学の著名なイマームでした。ザワーヒリーは成績優秀で、詩歌を愛する穏やかな少年でした。両親は敬虔なムスリムでしたが、狂信的ではありませんでした。

しかし、叔父の影響で、サイイド・クトゥブの思想に触れ、政治やイスラム主義に関心を抱くようになります。14歳でムスリム同胞団に入団し、翌年にはクトゥブが処刑されたため、地下活動に身を投じました。当時、「クトゥブ主義を行動に」をスローガンに掲げていました。カイロ大学医学部に進学し、心理学、薬学、そして外科を専攻。1974年に卒業後、エジプト陸軍で3年間外科医として勤務しました。その後、実家の近くで開業医として働きました。1978年には修士号を取得し、眼科医として高い技術を持っていました。同年、カイロ大学で哲学を専攻していた女性と結婚し、1男5女をもうけました。この頃、ザワーヒリーらの活動はジハード団に統合されていきました。

ジハード団での活動

ザワーヒリーはジハード団で、軍の将校を勧誘し、武器を集める役割を担っていました。1981年にジハード団によってアンワル・アッ＝サーダート大統領が暗殺されると、ザワーヒリーは逮捕されました。拷問を受けたとされていますが、大統領暗殺への直接的な関与は立証されず、違法武器所持罪で禁錮3年の刑を受けました。

アルカーイダへの合流

出所後、ザワーヒリーはハッジでサウジアラビアに向かい、ジッダで1年間医師として働きました。その後、パキスタンのペシャーワルに移り、赤新月社で難民の治療に従事しました。同時に、ジハード団の再建も試みました。ペシャーワルでアブドゥッラー・アッザームが組織したマクタブ・アル＝ヒダマト（MAK）に合流し、ウサーマ・ビン・ラーディンと出会いました。MAKの崩壊後、ムジャーヒディーンはビン・ラーディンをリーダーとしてアルカーイダを創設しました。

ザワーヒリーは、スイスとオランダの偽名とパスポートを使い活動し、この時期、アルカーイダの副官としてイランに接近し、イラン革命に倣ったエジプトでの革命を画策しました。1990年代には、イスラム原理主義ネットワークを世界的に拡大しようと動き、1993年にはアメリカに滞在し、カリフォルニア州で募金活動を行いました。1995年には、ジハード団として、在パキスタン・エジプト大使館爆破事件を主導しました。1994年以降、ジハード団内部の抗争が激化し、ザワーヒリーはスーダンを離れ、東アジアや東南アジアを転々としました。1996年にはチェチェンに入りましたが、ロシア国境で逮捕され、翌年に釈放されました。

ザワーヒリーらは、アルカーイダの拠点があったアフガニスタンのジャラーラーバードに入り、両者は統合されました。1997年には、イスラム集団が起こしたルクソール事件にも関与したとされます。この事件により、1999年にエジプトの軍事法廷で死刑判決を受けました。1998年2月23日には、ビン・ラーディンと連名でファトワーを発表し、ユダヤ・十字軍に対する聖戦を呼びかけました。同年6月24日、ビン・ラーディンと共にアルカーイダの会合を開催しました。同年8月、ケニアとタンザニアのアメリカ大使館爆破事件を起こし、国際的な注目を集めるようになりました。2000年には米艦コール襲撃事件を起こし、ビン・ラーディンとザワーヒリーはアメリカの報復を逃れるため、アフガニスタンのカーブルに移動しました。

アメリカ同時多発テロ事件以降

2001年9月、ザワーヒリーはアフガニスタンのホースト州で目撃されたのを最後に消息を絶ちました。妻や子供は、2001年のアフガニスタン紛争で米軍の爆撃で死亡しました。ザワーヒリー自身も死亡説が流れたこともありましたが、その後も40以上のビデオ声明をインターネット上に発表しました。2001年10月、アメリカ連邦捜査局はザワーヒリーを「最重要テロリスト」に指定し、2500万ドルの報奨金をかけました。一方、ターリバーンは、2001年11月にビン・ラーディンとザワーヒリーにアフガニスタンの市民権を与えました。

2008年11月19日には、バラク・オバマ米次期大統領に対する声明を発表し、オバマを「ハウス・ニグロ」と呼びました。この言葉は、アメリカの奴隷制度時代に、白人の家で働く黒人奴隷を指す侮蔑的な言葉で、マルコムXが使用したことで知られています。ザワーヒリーは、オバマを「イスラム教徒の父を持ちながら、イスラム教の敵に回り、キリスト教徒を騙している」と非難しました。この声明は、アルカーイダがアメリカの国内問題に関心を寄せている証拠だと指摘されました。

ビン・ラーディン死後のアルカーイダ

2011年5月2日、ウサーマ・ビン・ラーディンが米海軍特殊部隊によって殺害されました。アルカーイダの内部規則により、副官であったザワーヒリーが後継者となることが予想され、2011年6月16日に正式に指導者に選出されました。しかし、ザワーヒリーは、ビン・ラーディンのようなカリスマ性を持たず、他のメンバーからの信頼も薄かったとされます。また、エジプトでのジハードを優先しようとする姿勢から、組織内部で意見の対立がありました。

2013年には、エジプトのクーデターで、弟のムハンマド・ザワーヒリーが逮捕されました。2021年9月には、アメリカのアフガニスタン撤退に言及したザワーヒリーの映像が公開されました。

死

2022年7月31日、ザワーヒリーはカブールでアメリカ軍の無人機攻撃により殺害されました。71歳でした。アメリカ政府は、ザワーヒリーがバルコニーに立っていた際に、AGM-114 ヘルファイアミサイルで攻撃されたと発表しました。この攻撃は、民間人の被害を最小限に抑えるために慎重に行われ、ザワーヒリーの家族にも被害はなかったとされています。タリバンは、この攻撃を非難し、アメリカの行動は過去の失敗の繰り返しだと批判しました。一部の専門家は、ザワーヒリーの影響力が低下していたため、今回の殺害の目的を疑問視する声も上がっています。また、後継者として、より有能な指導者が現れる可能性も指摘されています。

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