アブドゥッラー・アッザーム

アブドゥッラー・ユースフ・アッザームとは

アブドゥッラー・ユースフ・アッザーム（1941年 11月14日 - 1989年 11月24日）は、パレスチナ出身のスンナ派イスラム神学者です。彼は、ソビエト連邦によるアフガニスタン侵攻に対抗するムジャーヒディーンの組織化において中心的な役割を果たしました。また、ウサーマ・ビン＝ラーディンの師であり、彼がアフガニスタンへ赴くきっかけを作った人物としても知られています。さらに、ターリバーンの創設者であるムハンマド・オマルにも大きな影響を与えたとされています。

生い立ちと教育

1941年、アッザームはイギリス委任統治領パレスチナで生まれました。大学では農業を学んだ後、教師となりましたが、後にダマスカス大学でイスラム法（シャリーア）を学び直しました。第三次中東戦争でヨルダン川西岸地区がイスラエルに占領されると、パレスチナ難民としてヨルダンに脱出。そこでムスリム同胞団に参加しました。

汎イスラム主義への傾倒

ヨルダンでは、ヤーセル・アラファート率いるパレスチナ解放機構（PLO）の世俗的な性格や地域性に幻滅し、西洋の植民地によって引かれた国境にとらわれない汎イスラム主義の思想に傾倒しました。この思想は、後にハマースの創設へとつながっていきます。アッザームはエジプトに移り、アル＝アズハル大学でシャリーアの研究を深めました。その後、ヨルダン大学で教鞭をとりましたが、黒い九月事件により、反イスラエルを掲げるパレスチナ人であるアッザームは追放され、再びアル＝アズハル大学に戻って博士号を取得しました。

クトゥブ主義の影響

アル＝アズハル大学で博士号を取得する間、アッザームはウサーマ・ビン＝ラーディンやアイマン・ザワーヒリーなど、サイイド・クトゥブの思想に影響を受けた若者たちと出会いました。クトゥブはムスリム同胞団の指導者であり、今日のイスラム原理主義の原点とも言える人物です。アッザームはクトゥブの思想を継承し、理論家としての道を歩み始めました。彼は、「文明の衝突」を不可避的なものと捉え、世俗的な政府の打倒を目指すようになりました。

アフガニスタンでの活動

エジプトからヨルダンに戻った後、アッザームはサウジアラビアに移り、キング・アブドゥルアズィーズ大学で教鞭をとりました。そこで、学生であったウサーマ・ビン＝ラーディンを指導しました。1979年、イラン革命やアル＝ハラム・モスク占拠事件が起こり、ソ連軍がアフガニスタンに侵攻しました。サウジアラビアはイスラム原理主義者を国外追放にしたため、アッザームはパキスタンに移住しました。

パキスタンでは、イスラマバードの国際イスラム大学で教鞭をとりながら、「ムスリムの地を異教徒の侵略者から守れ」というファトワーを発し、ペシャーワルに移りました。ペシャーワルを拠点に軍事訓練キャンプを設立し、アッザームの呼びかけに応じて、大学を卒業したばかりのビン＝ラーディンが1981年に合流しました。アッザームとビン＝ラーディンは、アフガニスタンでソ連軍と戦うムジャーヒディーンを集め、軍事訓練を行いました。重武装のソ連軍を相手に多数の戦死者が出たため、サウジアラビア政府やアメリカ中央情報局（CIA）はムジャーヒディーンへの財政支援を強化し、パキスタン軍統合情報局（ISI）は軍事支援を強化しました。

ムジャーヒディーンの指導者

ムジャーヒディーンの指導者間で意見の相違が出ると、アッザームとビン＝ラーディンがその調整を行い、2人はイスラム世界で英雄として名を馳せました。アッザームは、中東、ヨーロッパ、北米を回り、ムジャーヒディーンの英雄的な戦いを宣伝し、若者をリクルートしました。彼は「ジハードとライフルだけがあればいい。交渉も対話も要らない」と公言し、世界規模の汎イスラム主義を広めました。そして、その中核としてサウジアラビア総合情報庁（GIP）からの資金でマクタブ・アル＝ヒダマト（MAK）を設立しました。

暗殺とその後

アッザームは、対ソ連戦終結後、MAKで訓練したムジャーヒディーンが各地で革命戦士になることを夢見ていました。しかし、ジハード団のアイマン・ザワーヒリーなど、アフガニスタンで戦うムジャーヒディーンの中には、敵は異教徒ではなく、エジプト政府や腐敗した世俗のイスラム教徒であると考える者もいました。1989年、MAK内部で路線対立が表面化し、アッザーム暗殺未遂事件が発生しました。同年11月、金曜礼拝のためペシャーワルのモスクへ向かう途中、アッザームの乗った車が地雷によって爆破され、アッザームと2人の息子が死亡しました。犯行に及んだのはCIA、ISI、イスラエル諜報特務庁、イランのイスラム革命防衛隊などが疑われましたが、アッザームと対立していたMAK（事実上アルカイダに改組）内部の犯行も疑われています。

アッザームの死後、彼が築いた組織と思想は、テロ組織アルカイダへと受け継がれていくことになります。

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