アカクビワラビー

アカクビワラビー



アカクビワラビー学名:Notamacropus rufogriseus)は、カンガルー科に属する中型の有袋類です。双前歯目に分類され、オーストラリアを代表する動物の一つであるワラビーの仲間です。

分布と生息環境



このワラビーは主にオーストラリア大陸の南東部、具体的にはクイーンズランド州南部からニューサウスウェールズ州東部、ビクトリア州にかけて広く分布しています。また、バス海峡の島々を含むタスマニア島にも生息しています。彼らが好む環境は多様で、ユーカリなどの硬い葉を持つ樹木がまばらに生える疎林や、低木が茂る灌木地帯、さらには海岸沿いのヒースなども生息域となります。特にタスマニアでは、より密な森林地帯でも見られます。

オーストラリア国外にも、過去に人間によって持ち込まれた個体群が定着している地域があります。スコットランドやフランスの一部、そしてニュージーランドの南島には、現在もアカクビワラビーの小さな群れが存在しています。

分類と亜種



アカクビワラビーには、現在二つの亜種が認められています。

大陸亜種:M. r. banksianus と呼ばれ、オーストラリア本土に生息しています。一般的に「アカクビワラビー」として知られるのはこの亜種です。
タスマニア亜種:M. r. rufogriseus と呼ばれ、タスマニア島に分布しています。こちらは「ベネットワラビー」という別名でも知られており、本種の基準亜種にあたります。

形態



体格は亜種や性別によって異なりますが、全体的にオスの方がメスよりも大型になる傾向があります。例えば、大陸亜種のオスは体長約77〜89cm、尾長約70〜88cm、体重約15〜24kgに達する一方、メスは体長約71〜84cm、尾長約66〜79cm、体重約12〜16kgです。タスマニア亜種も同様にオスがメスより大きく、体長約71〜92cm、尾長約69〜86cm、体重約15〜27kgとなり、メスは体長約66〜74cm、尾長約62〜78cm、体重約11〜16kgです。

体毛は、赤茶色から灰褐色を基調としています。特に首の周囲には赤みがかった体毛が集まっているのが特徴で、和名の由来にもなっています(ただしタスマニア亜種ではこの赤みが少ない傾向があります)。全身には白い毛が混じり、白髪のように見えることもあります。腹部から喉にかけては白色の毛に覆われ、上唇の上部にも白い線が入っています。手足の先や鼻の色は黒色です。

生態



アカクビワラビーは、主に朝方や夕方に活動する薄明薄暮性動物です。普段は単独で行動することが多いのですが、安全な場所で餌を探す際には複数の個体が集まって採食する様子も見られます。食性は草食性で、主にさまざまな種類の草本植物や果実などを食べます。特に森林や林の縁にある草地で餌を採ることが多いです。

繁殖期は亜種によって異なり、大陸亜種では一年を通して繁殖が可能で夏にピークを迎えるのに対し、タスマニア亜種では12月から7月にかけてが繁殖期となります。妊娠期間は約30日間と比較的短いです。生まれたばかりの子どもは非常に小さく未発達ですが、驚くべきことに自力で母親の腹部にある育児嚢(ゆうじのう)まで這い上がり、乳首を見つけて吸い付きます。育児嚢の中で約280日間を過ごした後、子どもは外に出入りするようになり、徐々に草を食べ始めます。完全に母親のミルクから離れる、つまり離乳するまでには12ヶ月から17ヶ月かかります。その後、若いオスは生後約24ヶ月になるまでに母親の行動圏を離れて独立しますが、メスは同じ地域に留まることが多いです。

自然界におけるアカクビワラビーの主な天敵には、ディンゴキツネ、タカなどの猛禽類がいます。特に、まだ母親のそばで過ごしている若い個体はこれらの捕食者にとって狙われやすい存在です。

移入された個体群



オーストラリア国外に存在するアカクビワラビーの群れは、人間の活動によって持ち込まれたものが起源です。例えば、スコットランドローモンド湖にあるインシュコナカン島には、1970年代に動物園から持ち込まれたつがいがもとになった群れが暮らしています。フランスでも、パリ近郊のランブイエの森南部において、1970年代に動物園から脱走した個体群が定着しています。ニュージーランドの南島には、1870年代にタスマニアから輸送された個体がもととなり、現在では広範な地域に生息する大規模な個体群が形成されています。しかし、ニュージーランドの一部の地域では、増えすぎたアカクビワラビーが農作物に被害を与えるなどの問題から、管理の対象となり害獣とみなされることもあります。

参考文献

Cath Jones & Steve Parish, Field Guide to Australian Mammals, Steve Panish Publishing, 2004
Egerton, L. ed. 2005. Encyclopedia of Australian wildlife. Reader's Digest

関連項目

カンガルー
ワラビー

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