アカザ (植物)

アカザ（藜）とは

アカザ（学名: Chenopodium album var. centrorubrum）は、ヒユ科アカザ属の一年草で、畑の縁や空き地などによく見られる雑草です。非常に繁殖力が強く、2メートルほどの高さにまで成長します。古くから食用や民間薬として利用されてきた歴史があります。

名称について

新芽が赤いものをアカザ、白いものをシロザと呼び分けます。地方によって様々な別名があり、ウマナズナ、アトナズナ、サトナズナ、シロアカザなどのほか、アカアサ、アカジャ、アカナ、アマノジャク、ギンザ、センベグサなどとも呼ばれます。英語では「Fat Hen（肥えた雌鶏）」と呼ばれます。

中国植物名（漢名）は藜（れい）です。

分布と生育地

アカザは南アジアから北アフリカ、北アメリカまで、世界中に広く分布しています。日本では、北海道から沖縄まで、日当たりの良い河原、野原、畑地、荒れ地、道端など、様々な場所で群生しているのが見られます。古い時代に食用として栽培されていたものが野生化したと考えられています。

特徴

アカザは一年草の草本で、草丈は1.5〜2メートルほどに成長します。茎は直立し、縦に筋があり、秋には木質化します。葉は長い葉柄を持ち、互い違いに生えます。葉の形は菱状卵形から三角形で、中心部の若い葉は赤紫色を帯び、全体が白い粉をまとったように見えます。この若い葉が赤く染まるのがアカザの特徴です。赤くなく白いものはシロザと呼ばれます。

花期は夏から秋（9〜10月ごろ）で、茎の先端が枝分かれし、葉の付け根や枝先に黄緑色から緑白色の小さな花を穂状につけます。花には花弁がなく、花被片が5つあります。果実は平たい円形をしており、果実期の果穂は赤みを帯びます。果実は胞果で、花が終わった後に閉じた萼片に包まれ、五角形に見えます。果皮は薄い膜質で、1つの種子を包んでいます。種子は平たい円形で、直径1ミリ[[メートル]]ほど、黒色でつやがあります。

アカザは丈夫で繁殖力が強く、生育が早く、特に窒素分の多い土地でよく育ちます。風媒花のため、花粉が飛びやすく、アレルギーの原因になることもあります。アカザの葉はカメノコハムシの食草であり、食痕のある葉を裏返すと、成虫や幼虫を見つけることができます。

亜種・変種、雑種

アカザの若葉を覆う赤い粉状の微細な粒は、紫外線の害や、過剰な光エネルギーから葉を保護する役割があります。この粒が白いものがシロザで、アカザよりも多く見られます。分類学上は、アカザをシロザの変種とするのが一般的ですが、様々な亜種や変種があり、学名も複数用いられています。また、同属の他の種とも容易に交雑します。

利用

アカザは畑の雑草として駆除されることが多いため、好んで食べる人は少ないですが、葉は茹でて食用にできます。ホウレンソウによく似た味がします。シュウ酸を多く含むため、生食には適しません。茶として飲まれることもあります。種子も食用にできます（同属のキノアは種子を食用とする穀物です）。「藜の羹（あつもの）」という言葉は、粗末な食事を意味する言葉として使われます。茎は太く硬くなるため、杖の材料にもされ、アカザの杖は最高級とされています。

食用

若芽、若葉、花、未熟な種子は食用にでき、シロザも同様に食用になります。採取適期は暖地では4〜5月ごろ、寒冷地では6月ごろです。春の若芽や秋まで出る若葉の柔らかい部分を摘み取り、秋の未熟な種子は手でしごいて採取します。天日干しにすることで保存も可能です。

若い葉は裏側の白い粉を水で洗い落とし、軽く茹でて水にさらした後、おひたし、ごま和え、炒め物、煮びたし、卵とじなどにします。生のまま天ぷらや汁の実にも利用できます。黒く熟した実や未熟な種子はさっと茹でて、三杯酢、おろし和え、佃煮などにすると、プリプリとした食感を楽しむことができます。栄養価が高く、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンCを多く含みます。干したものは水につけて戻し、粉をよく落としてから煮びたしや炒め物、汁の実などにします。

江戸時代には野菜として栽培も行われていましたが、人によっては食後に日光を浴びると「アカザ日光アレルギー性皮膚炎」を発症する場合があります。一度に大量に食べたり、常食したりしないように注意が必要です。

薬効

薬用部位は全草で、日本では生薬名はありませんが、中国では藜（れい）と呼ばれます。のどの痛みや整腸の民間薬として、アカザの全草が用いられます（シロザは薬用には使いません）。茎葉は、4〜7月の柔らかいものを採取し、天日乾燥させて調製します。のどの痛みを和らげるには、乾燥させた茎葉1日量20グラムを水500ccで煎じて、3回に分けて服用します。下痢には1日量5グラムを水で煎じたものを3回に分けて服用します。湿疹のかゆみには、1日量10グラムを水600ccで煎じた液を冷まして、1日3回ガーゼに浸して患部に塗ります。生葉の搾り汁は、毒虫などに刺された時の痛みを止めるとされ、歯痛には生葉の汁を含ませたガーゼを噛むと良いとされています。

アカザは腸、皮膚、歯肉の熱を冷ます薬草ですが、妊婦や胃腸が冷えやすい人への使用は禁忌とされています。

アカザ属

アカザ属（Chenopodium）は、アカザ科（APG植物分類体系ではヒユ科）に属する植物の属の一つです。

アカザ属の主な種

マルバアカザ (Chenopodium acuminatum)
カワラアカザ (Chenopodium acuminatum var. vachelii)
シロザ (Chenopodium album)
アカザ (Chenopodium album var. centrorubrum)
ムラサキアカザ (Chenopodium album var. purpurascens)
アリタソウ (Chenopodium ambrosioides)
アメリカアリタソウ (Chenopodium ambrosioides var. anthelminticum)
ハリセンボン (Chenopodium aristatum)
キクバアカザ (Chenopodium bonus-henricus)
ミドリアカザ (Chenopodium bryoniifolium)
コアカザ (Chenopodium ficifolium)
タカサゴムラサキアカザ (Chenopodium giganteum)
ウラジロアカザ (Chenopodium glaucum)
イワアカザ (Chenopodium gracilispicum)
ウスバアカザ (Chenopodium hybridum)
ヒメハマアカザ (Chenopodium leptophyllum)
ホソバヒメハマアカザ (Chenopodium leptophyllum var. subglabrum)
ミナトアカザ (Chenopodium murale)
ヒロハアカザ (Chenopodium opulifolium)
ヒロハヒメハマアカザ (Chenopodium pratericola)
ゴウシュウアリタソウ (Chenopodium pumilio)
キヌア (Chenopodium quinoa)
アカバアカザ (Chenopodium rubrum)
キクバノアリタソウ (Chenopodium schraderianum)
ホソバアカザ (Chenopodium stenophyllum)
シロザモドキ (Chenopodium strictum)
テリハアカザ (Chenopodium urbicum subsp. sinicum)
アイノコアカザ (Chenopodium x preissmannii)
ノハラアカザ (Chenopodium x zahnii)

脚注

注釈

出典

参考文献

貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、8頁。ISBN 4-09-208016-6。
金田初代、金田洋一郎（写真）『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、38 - 39頁。ISBN 978-4-569-79145-6。
篠原準八『食べごろ 摘み草図鑑：採取時期・採取部位・調理方法がわかる』講談社、2008年10月8日、6頁。ISBN 978-4-06-214355-4。
鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『草木の種子と果実：形態や大きさが一目でわかる植物の種子と果実 632種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2012年9月28日、105頁。ISBN 978-4-416-71219-1。
高野昭人監修 世界文化社編「あかざ（藜）」『おいしく食べる 山菜・野草』世界文化社〈別冊家庭画報〉、2006年4月20日、31頁。ISBN 4-418-06111-8。
平野隆久写真『野に咲く花』林弥栄監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、1989年、356-357頁。ISBN 4-635-07001-8。
馬場篤『薬草500種－栽培から効用まで』大貫茂（写真）、誠文堂新光社、1996年9月27日、12頁。ISBN 4-416-49618-4。
『写真で見る外来雑草』畜産技術協会、1995年、4頁。ISBN 4-88137-056-1。http://nilgs.naro.affrc.go.jp/db/weedlist/title.html。

関連項目

外来種
薬草

外部リンク

Chenopodium album var. centrorubrum Makino (英語) Integrated Taxonomic Information System.
Chenopodium album (英語) National Center for Biotechnology Information（NCBI）.
Chenopodium album centrorubrum - Encyclopedia of Life (英語)
シロザ 植物雑学事典 岡山理科大学総合情報学部.
アカザ 植物図鑑・撮れたてドットコム.

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