アカスジキンカメムシ

アカスジキンカメムシ

（Poecilocoris Lewisii）は、カメムシ目に属するキンカメムシ科の昆虫の一種です。その全身を覆う金属光沢のある鮮やかな金緑色の輝きは、多くの昆虫愛好家を魅了する美しい昆虫です。

特徴

成虫は全長1.5センチメートル程度の比較的大型で、厚みのある楕円形をしています。キンカメムシ科の中でも特に丸みを帯びた体形が特徴です。頭部は体と同じ金緑色ですが、中央に2本の黒い縦線が入ります。複眼は暗褐色。触角は5節からなり、第2節が最も短く、黒色ながらも美しい紫藍色の光沢を放ちます。前胸背も金緑色で、中央に弧を描くような淡褐色の横帯があり、その両端と中央から後方へ伸びる縦線も同色です。腹部をほぼ完全に覆う大きな小楯板は、基本的には金緑色ですが、前端や中央、後方に淡褐色の複雑な斑紋が入ります（前端左右にT字形、中央にW字形、その後方に十字形、後端部）。体の下面や脚は淡黄色地に黒い斑紋が散りばめられていますが、全身を覆う金緑色の金属光沢が美しく、特に前胸の下面、腿の上面、脛には強い光沢が見られます。稀に全身が黒色の個体も存在します。

幼虫

幼虫は成虫とは全く異なり、頭部から胸部全体、および腹部の中央部分は黒褐色を呈し、腹部の縁に沿って幅広い白い帯状の斑紋が入る独特の色彩と模様を持っています。

分布

日本では本州、四国、九州に分布しており、国外では台湾、朝鮮半島、中国、極東ロシアに広く生息しています。主に山地の森林にその姿を見ることができます。キンカメムシ類の多くは熱帯性が主である中で、本種は温帯に適応した種であり、日本では比較的温暖な地域から、関東地方のような地域でも丘陵地や山間部で見られるのが特徴です。

生態

植食性の昆虫で、ミズキ、フジ、キブシ、ヤシャブシ、ウルシ、クヌギ、エゴノキといった落葉広葉樹や、スギ、ヒノキなどの針葉樹の球果から汁を吸って生活しています。シキミの果実でも繁殖可能で、飼育下ではラッカセイを餌に累代飼育できることも確認されています。

生活環

冬は終齢である5齢幼虫で越冬します。樹皮の下や落ち葉の間などで冬を過ごし、翌年の初夏になると羽化した新しい成虫が現れます。

分類

アカスジキンカメムシが属するアカスジキンカメムシ属には、日本国内にもう一種、ニシキキンカメムシ（D. splendidulus）が生息しています。ニシキキンカメムシは体格や斑紋が本種とやや似ますが、地色が金黄緑色で、紫を帯びた赤褐色の斑紋が黒く縁取られている点で容易に区別できます。ニシキキンカメムシは古くから「日本産カメムシ最美の種」と称されています。

人間との関わり

農業などにおける実用的な利害はほとんどありません。しかし、その類まれなる美しさゆえに多くの人々の目を引きつけます。同属のニシキキンカメムシと比較されるほどの美しさから、「歩く宝石」と称されることもあり、昆虫の写真集などでよく紹介されます。また、1986年に発行された日本の切手「昆虫シリーズ第1集」において、本種がデザインとして採用されたことも特筆されます。

標本化の難しさ

アカスジキンカメムシを含む多くのキンカメムシ類は、生きている時は美しい色彩を放ちますが、標本にすると著しく色あせてしまう性質があります。これは体内の油脂が原因とされており、色や光沢を比較的残すためには、餓死させて油脂分を減らしてから標本にする方法などが試みられます。

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