アカヒゲ(赤髭)とホントウアカヒゲ
アカヒゲ(
Larvivora komadori)は、
スズメ目ヒタキ科に分類される
鳥類です。かつては3亜種に分類されていましたが、近年、沖縄諸島に生息する個体群がホントウアカヒゲ(
Larvivora namiyei)として独立種とされました。ここでは、アカヒゲとホントウアカヒゲについて詳しく解説します。
分布
アカヒゲは、
男女群島から奄美群島にかけて繁殖し、冬季には一部が八重山諸島に渡るとされています。一方、ホントウアカヒゲは、現在ではほぼ沖縄島北部にのみ分布しています。過去には慶良間諸島での確認例もありますが、亜種は不明です。
分類
種小名「komadori」は、本種が
コマドリと誤認されたことに由来します。
和名もまた、赤い羽毛が特徴であることから名付けられました。アカヒゲは
コマドリと近縁であり、
ミトコンドリアDNAの分析では、コルリやシマゴマに近いとされています。以前は旧
コマドリ属に分類されていましたが、現在ではノゴマ属に分類され、さらに
コマドリ、コルリ、シマゴマなどと共にLarvivora属を構成するという説が有力です。
関(2009)の研究では、アカヒゲは基亜種とホントウアカヒゲの2つの系統に大きく分かれるとされ、
更新世中期に琉球諸島で分岐したと推定されています。その後の進化の過程で、北部の系統群は渡りを行うようになり(現在のアカヒゲ)、南部の系統群は渡りを行わなくなった(現在のホントウアカヒゲ)と考えられています。
男女群島の個体群は、他の個体群と比べて隔離分布していますが、遺伝的な距離は小さいとされています。
日本
鳥類目録 改訂第8版では、ウスアカヒゲを基亜種のシノニムとしていますが、BirdLife InternationalやIUCN
レッドリストでは、アカヒゲとホントウアカヒゲはそれぞれ独立種として扱われています。
アカヒゲ (Larvivora komadori)
奄美大島、
徳之島、
男女群島、トカラ列島で繁殖する留鳥または夏鳥です。冬季には先島諸島へ移動する個体もいます。
奄美大島や
徳之島では周年生息する個体も見られます。夏季から秋季にかけては
大隅半島や大隅諸島でも観察され、屋久島では繁殖期の記録がありますが、確実な繁殖例は確認されていません。
全長は約14センチメートル。上面と翼は赤褐色で、体下面は白色です。額に大きな黒色斑があり、オスは顔から胸部にかけて黒く、体側面に黒色斑があります。メスは体側面の羽毛の縁が灰色で、鱗状の斑紋に見えます。
ホントウアカヒゲ (Larvivora namiyei)
日本固有種で、沖縄島北部にのみ分布しています。
和名は沖縄島に生息することに由来します。
全長は約14センチメートル。アカヒゲと比較して、翼の先端が丸みを帯びています。上面と翼は橙褐色で、体下面は灰色です。額の黒色斑は小さく、オスは顔から胸部にかけて黒いですが、体側面に黒色斑はありません。
ウスアカヒゲ (Larvivora komadori subrufus)
かつて
与那国島に生息していたとされた亜種ですが、1921年にオス1羽が採集されたのみで、現在は
絶滅したと考えられています。
生態
アカヒゲとホントウアカヒゲは、
常緑広葉樹林や二次林に生息し、昆虫、クモ、多足類、ミミズなどを餌としています。果実も食べると考えられています。
アカヒゲは、樹上、
樹洞、木の割れ目などに枯葉や蔓、樹皮などを使ってお椀状の巣を作ります。ホントウアカヒゲは、
樹洞やヘゴ、枯れ木、倒木などに同様の巣を作ります。両種ともに、巣箱や民家などの人工的な環境にも営巣します。産卵数は、アカヒゲが1~5個(主に4個)、ホントウアカヒゲが2~5個(主に4個)です。
人間との関係
アカヒゲ(ウスアカヒゲを含む)は、
1970年に国の
天然記念物に指定され、
1993年には国内希少野生動植物種に指定されました。
保全状況
環境省の
レッドリストでは、アカヒゲの亜種として評価していますが、IUCN
レッドリストでは独立種として評価しています。
アカヒゲ:ネコや外来種のニホンイタチによる捕食、森林伐採や開発、ヤギによる生息地の破壊が懸念されています。
IUCN
レッドリスト:準
絶滅危惧(NEAR THREATENED)
環境省レッドリスト:絶滅危惧II類(VU)
ホントウアカヒゲ:外来種フイリマングースやノイヌ・ノネコによる捕食、森林伐採や開発による生息地の破壊が懸念されています。フイリマングースの分布拡大により、沖縄島中部ではほとんど繁殖が確認されなくなりました。
IUCNレッドリスト:準絶滅危惧(NEAR THREATENED)
環境省
レッドリスト:
絶滅危惧IB類(EN)
ウスアカヒゲ:絶滅(環境省レッドリスト)
参考文献
日本
鳥類目録 改訂第8版
環境省レッドリスト
IUCN
レッドリスト
関連項目
* 日本の野鳥一覧