アギア・ソフィア聖堂 (テッサロニキ)

アギア・ソフィア聖堂は、ギリシャのテッサロニキに位置する正教会の聖堂で、東ローマ帝国の暗黒時代に建設された数少ない教会堂の一つです。この時代に建てられた建造物で現存するものはギリシャでは唯一であり、その歴史的価値は非常に高いと言えます。

歴史

アギア・ソフィア聖堂の正確な建設過程は不明な点が多いですが、内陣のモザイク碑文から、780年から797年の間に女帝エイレーネーとコンスタンティノス6世の共同統治下で建てられたと考えられています。この時期、東ローマ帝国はブルガリア帝国への遠征やスラブ人の影響排除に力を入れており、783年にはコンスタンティノポリスでバルカン半島のスラブ人への勝利を祝う祭典が開かれました。この勝利を記念してアギア・ソフィア聖堂が建設されたという説もあります。

構造

アギア・ソフィア聖堂は、円蓋式バシリカという形式を採用していますが、身廊が浅いヴォールトで十字型に構成されているため、クロス・ドーム・バシリカ、あるいはクロス・ドーム型とも呼ばれます。壁の厚さは2メートルに達し、窓が少ないのが特徴です。ドームを支える主柱と、アーチ中央に設けられた角柱によって、側廊と身廊が明確に区分されており、内部空間は集中性が高い構成となっています。円柱には、5世紀から6世紀に作られた転用材が使用されています。聖堂全体の工事の出来は、必ずしも優れているとは言えませんが、当時の東ローマ帝国の建築技術を知る上で貴重な資料です。

内部装飾

建設当時は、聖像破壊運動の影響が強く、アプスのモザイクには十字架のみが描かれていました。しかし、後に聖像破壊運動が終息し、東ローマ帝国の国力が回復すると、新たなモザイクが追加されました。オスマン帝国時代にはモスクとして使用されていたため、モザイクは漆喰で塗りつぶされていましたが、現在は剥がされ、当時の美しい姿を取り戻しています。

『昇天』

ドームには、885年頃に描かれたモザイク「昇天」があります。後には、ハリストス（キリスト）のイコン「パントクラトール」が描かれるようになるため、初期の図案が残っている例としては非常に貴重です。この作例は、他にカッパドキアの岩窟修道院、アーチュ・アルトゥ・キリッセのドームにも見られます。その洗練された技術から、首都コンスタンティノポリスの技師によって描かれたと考えられています。

『生神女』

12世紀に描かれたモザイク「生神女」も聖堂の重要な装飾の一つです。かつては、イスタンブールのアヤ・イリニと同様に十字架のみが描かれていましたが、後に生神女像が追加されました。ヴォールトに残る十字架のメダイヨンは、8世紀のものであると考えられています。

関連事項

ビザンティン建築
テッサロニキの初期キリスト教とビザンティン様式の建造物群

参考文献

シリル・マンゴー著・飯田喜四郎訳『ビザンティン建築』（本の友社） ISBN 4894392739
ジョン・ラウデン著・益田朋幸訳『初期キリスト教美術・ビザンティン美術』（岩波書店） ISBN 978-4-00-008923-4
* 益田朋幸著『世界歴史の旅　ビザンティン』（山川出版社）ISBN 9784634633100

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